禍記-マガツフミ-/田中啓文


禍記(マガツフミ)

禍記(マガツフミ)


…私はこの人が、好きなんだろうなぁ…。いい加減自覚してきた今日この頃です。いえ、体力がある時に読まないと予想外に体力と気力を奪われてしまう人ではあるので、別の意味で要注意なのですが。




内容は短編集詰め合わせ。合間合間にチマチマと「禍記」と言う古書を探す女性編集者の話が挿入され、短編の中にも極たまに姿を現します。全部で短編は五話収録されていて、どうも感覚的に後になるにつれ味と癖が濃くなっていくような感じがします。設定もぶっ飛んでいきますし。

一番最初の「取りかえっ子」は題名そのまんまで、幸せな夫婦だったはずなのに、妻は赤ん坊を産んだ直後、この子は自分の子じゃない、と言い張るようになります。妻の視点で語られるのですが…うん、この本を全部読み終わった後に「ありえそうな話だなぁ」と思ってしまった時点で、何かが間違ってる気がするのですが、一番地に足がついているように思います。妻が狂っていく様子はサッパリとしてて良。

「天使蝶」は、設定が一番好きです。「天使」と言う存在が面白いなぁ、と思いまして。とある田舎の村が舞台で、その閉鎖した感じはなかなか。いい感じに「怪異的」なものと現実が入り混じっていて、素敵です。だって、普通にオリンピックとかが出てくるのですよ。終わり方については何も言いません。爺ちゃんの変わりっぷりに多少違和感がありましたが、ま、孫は可愛いのでしょう。うーん、やっぱり、設定が素敵だなぁ。とある漫画を思い出してしまう。私は多分、人より蝶が好きなのかもしれません。

「怖い目」は、グロテスク強化型。ナメクジとかを食います。「ひゃくめさま」という神を信仰する盲目の人のみが住む島へ、恋人を探しに行く女性の話なのですが…。…これは愛の力なのかなぁ。分からない。…痛そうだなぁ、色々と。何だか、遠い目をしたくなる話でした。

「妄執の獣」は、子どもが突然夜に「モミ」が来る、と言い出す話。それだけなら少し変わった怪異話で終わりそうなのですが、一々描写が細かいよぉ。ちょっと「モミ」と言う度に怒られる子どもの描写が長くて、中だるみしましたが、終わり方としては納得、かな。もっとスピード感があったら嬉しかった。うーん…、好きなのですが設定なども含めて飾りが多すぎる気がする。私好みではあるのですがね。

「黄泉津島舟」は、設定が一番ぶっ飛んでいます。未来、ワープの仕方を発見した人類だったが、そのワープが通る道とは「黄泉」だった…的なものです。これも話の本筋が入るまでがちょっと長いなぁ、と感じましたが、設定を納得させるためには仕方ないのかもしれません。それで、死んだ恋人と生き返らせるため、とある男は黄泉へと舞い降り…。こんなの、神話にもあったなぁ、と思わず思ってしまいました。というか、何処にでもある話ではあるのだよなぁ。だけど、違うんですよ。一々描写が細かいんですって。そんな地獄の池の事を長々とっ。おかげで、ゾワゾワさせてくれます。ま、話は脱出劇を試みたり、ちょっと不思議な事が起こったり、と…まぁ、お前ら、幸せなら良いんじゃない、と言うのが素直な感想。乗客巻き込むなよなぁ、と言う冷静なツッコミを入れたくもなるのですが、そこに文句は言ってはダメなのでしょうね。愛の前では多分、全て無意味なんです。うん、そういうことにしておこう。というか…、やっぱりこれ、神話が元になっているよなぁ、確実に。微妙に伏線もあったわけだし。…ぶっ飛んでるなぁ…。

最後に、チマチマと合間に入る「禍記」は、一度に読んだら「へぇ」ぐらいのものなのですが、合間合間に入ることで、吸引力を持っていますね。最後のページの細工は、気合入れたなぁ、と思います。

話の終わり方が一編をのぞいて似通っているのは「怪異」を扱っているので当然だとは思うのですが、思い返してみると、何だかしみじみしてしまいます。うーん、まぁ…そうなるしかないわなぁ。じゃないと、幾らたっても話がオチない。でも、今回はそんなにグロテスクなわけでも、描写が激しくて頭痛がするわけでもなかったので、全体的に軽いです。オチが似通っているから、というのもあるかもしれませんね。永遠に終わらない悪夢、といった感じがない。サクサク読めました。かわりに、読み始めても途中で止めることも可能なくらいののめりこみ方でしたが。体力も奪われなかったし。それと、やっと気付いたのですが、結構この人の文体好きみたいです。他の要素が薄くなっていたおかげで、やっと気づけましたよ。

うん、入門書としては良いのかもしれない。この人については、描写の計り方がいつもと違うので、断言は出来ませんが。

 禍記-マガツフミ-/田中啓文


禍記(マガツフミ)

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…私はこの人が、好きなんだろうなぁ…。いい加減自覚してきた今日この頃です。いえ、体力がある時に読まないと予想外に体力と気力を奪われてしまう人ではあるので、別の意味で要注意なのですが。

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