WILL/本多孝好


WILL

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本多孝好、なんかあったのかなぁ…。とふと空を見上げて問いたくなります。『正義のミカタ』あたりから分かっていましたが、作風変わったなぁ、というのが素直な印象。この話の前作になる『MOMENT』とか初期作の『Missing』は、もっと淡々としてニヒルで、だからすこし切ない話でした。それより人情味が増してきました。さて『MOMENT』から7年後……。


前作では主人公『神田』を支えていた『森野』が今回の主人公。高校生の頃に両親を亡くし、葬儀屋を継いだ。細々と古株の『竹井』と新人の『桑田』と共に、寂れた商店街で店を経営している。

神田はなぜかアメリカに。たまに森野の電話してきては、淡々と会話をします。

話は連作短編形式。主に葬儀にまつわる不可思議な謎が浮かび上がり、森野が持ち前の責任感でそれの解決に乗り出します。

現れた故人の幽霊。葬儀をやりなおしてほしい、と云う仏様の愛人。生まれ変わりを称する少年……。たまに神田が相談に乗りつつ、森野のモヤモヤを引きずりつつ、話は進行していきます。

いいな、と思ったのは、森野は別に真実を追い求めていないこと。終わらせることだけが目的です。これ以上話が進展しないように。一番のお気に入りは、生まれ変わりの話。優しさに溢れてていいですよ。森野が思い込んだ挙句に、強引な手段に出るあたりが、アクティブで素敵です。

そうやって細い糸を幾重に編み上げていくように、最後にはひとつの物語が完結しますて。最初にはじまて、最後に終わる。かといって、すべての出来事が繋がっているわけではないので、神経を張り詰めて読む必要はありません。同じテンポで紡がれているので、疲れることもありません。んー、テンポがいい。ゆっくりゆったり。けれど、着実に進んでいく。結構危うい人々が登場するのですが、それを細かい網で救い上げたり、あるいは突き放したり、そしてまた冗談めかして拾ったり。そのあたりのバランス感覚のよさは最高級かと。個人的に、一番好きな人は『愛人』。後味はほろ苦さを僅かに残しながら、爽やかです。青春的な爽やかと間逆の、静かな、雪のような爽やかさ。その内もう一回読み直そうかなー、と思えるバランスのとれた一冊でした。

後、前作の関連なのですが、友達が本多孝好が好きで、読む前に感想を聞いたところ『神田君がかっこよくなってたっ』とすごい笑顔で報告してくれました。読んで納得。正直、何度か頭を抱えて「本当にお前はあの神田か?」と自問しました。そうか、七年ってすごいな。いや、前作から視点が移っているので、そもそもこういう奴だったのか。ちょっと不明ですが『MOMENT』読んで確認したくなりました。

友達の云っていた「かっこいい」の意味は、よくわかりました。……結構彼は恥ずかしい性格です。

『MOMENT』ではかっこいいのは森野の方だったので、正直しばらくは違和感がありました。森野って、こんなにも中はぐちゃぐちゃしてて、優柔不断で、弱いところがあったんだぁ、と。

よく、前編、続編がある話だと、こっちを先に読んだほうがいい、という押し付けをしたくなるのですが、今回ばかりは、本当にどちらでも。どっちを先に読んでも、七年の時を過ごした登場人物たちの変わり様は新鮮に感じて、慣れるのに時間がかかるでしょうから。

相変わらずシュール間近の小気味いいセリフ使いと、設定には楽しい思いをさせてもらいました。

『女は子宮でものを考えるというが、男も時には膀胱でものを考える(うろ覚え)』には笑えました。ものすっごく真面目な文体で何いってるのだか。持続する緊張感はないですが、逆にそれがいいです。