星々の舟/村山由佳


星々の舟 Voyage Through Stars

星々の舟 Voyage Through Stars


直木賞受賞作。この本、とっても装丁がきれいです。絵も細かくて雰囲気があるし、黒に銀をまぶしたような表紙がとってもすてきです。



中身は、とある家族の連作短編集です。偏屈な父親に、後妻の母親、血の繋がりが複雑な兄弟たち。しかも、兄弟は4人なので、けっこうな大家族です。けれど、アットホームな雰囲気はありません。

話は、家を出た次男のもとに、母親危篤の知らせが来るところからはじまります。

んー、とですね。話の内容は、ミステリーものとは違って、筋がないので説明は難しいです。無理に言うとすれば、壊れた家族の再生しない物語です。

4人兄弟と父親と孫娘が話を繋いでいくのですが、それぞれの話に特色があって面白かったです。私は孫娘の話が好きなのですが、(と、いうより、この人の書く少年少女が好きみたい)圧倒的だったのは父親の章でした。それまで、頑固で「うむっ」しか言わなくて、暴力までふるってきた父親の中は、そりゃもう圧倒でしたよ。家族についての心理状況はあまりなく、(それでも孫娘は可愛いらしい)戦争が、彼の中を大きく支配しているさまが、好き嫌いと通り越して、とにかく圧巻でした。直木賞受賞作は、どうも私の中で相性がよくないのですが、父親と孫娘の話を読むだけの価値はあると思いました。

後、次女の章は感慨深かったです。次男からも「この明るさに何度救われたかわからない」と言われる程明るい彼女なのですが、それにも理由があってのことなのです。なんだかんだで、父親に気に入られつつも、地味に被害を受けているのは、彼女な気がしました。

純文学らしい、「結局何の解決もしてねぇじゃないかっ」的なことは確かにありますが…、別の章にうつったときに、密やかにではありますが、どうしてもモヤモヤするところは説明してくれているので、そんなに消化不良にはなりませんでした。

そして、次男と長女の関係の一片を、あぁいう形で迎えさせることにビックリしました。すてき、心理描写一切なしで、それでも人に考えさせる短く複雑なセリフを吐くって、とっても、すてき。心理を描写されたら「このくらいなんだ」と思うのですが、描写しない分だけ、想像の余地が生まれ、その想像を脹らませるくらいの心理描写が、その前にたっぷりあるのです。あぁ、こういう描き方もあるんだ、と目からウロコでした。