押入れのちよ/荻原浩


押入れのちよ

押入れのちよ


この人は最近「噂」を読んだものの、バタバタしてたので、記事を書くのはこれがはじめてになりますね。ちなみに「噂」も面白かったですよ。




「押入れのちよ」は、表題作を含む九篇収録の短編集。何だか、開けてびっくり宝箱、てな感じの構成でした。九篇収録されているものの、ほとんどすべてが雰囲気が違うんです。じっとりとしたホラーもあれば、ほのぼののホラーがあれば、ギャグっぽいもののあれば、切ない系もあれば、この本読んだら、この作者さんがどんなものを書くのか、予測が出来なくなりましたよ。

「お母さまのロシアのスープ」はしっとりと落ち着いた雰囲気の一人称で語られる、戦後、中国に住むロシア人の親子の物語。最初読んだ時はふーん、だったのですが、後々にこの雰囲気が懐かしくなっていきました。とにかく、雰囲気が素敵。残酷なこともあるのですが、最後に雰囲気を壊さないところが素敵。この話の中で、二番目に好きな話。

「コール」は、切なくも暖かいお話。学生時代の仲良し三人組が大きくなり、その内の一人が死んだ事から話はスタートします。少し青春臭くて、切ないけれど、少しほのぼのと楽しい。ここで過度に青春を懐かしがったり、感傷的にならないところのバランス感覚って、素敵です。

「押入れのちよ」は超絶的に私の好みのお話っ!安いアパート、人間くさい幽霊、そして奇妙ながらも楽しい同居生活っ。んー、楽しい。こういうの大好きです。終わり方も驚きはしないけれど、もろツボでした。

「「殺意のレシピ」はとある夫婦の夕食風景のお話。お互いがお互いを事故に見せかけて殺そうと企み、緊迫感溢れる食事が続きます。ギャグっぽくて、なかなか楽しい。「お母さま~」が塩味のスープだとすれば、こっちはトンコツスープ。濃いんですよ。ギャグ成分か、それとも別のものなのかはわかりませんが、とにかく、濃い。

「しんちゃんの自転車」は、切なく優しい、最後の短編。似たようなシチュエーションは世の中に溢れていようとも、どう料理するかは作者さんの腕にかかっているんだなぁ、と思いました。きれいにまとまった、いいお話でした。(ネタ  幽体じゃなくて肉体なところが素敵でした。そして、それを我慢する女の子が、もう、たまりません  バレ)

その他にも、引越し先に気味の悪い老猫がいたり、殺人をしてしまったらハウスクリーニングが来ちゃたり、虐待のような介護をしている嫁がいたり、昔の妹の失踪事件を捜査したり、と、本当にバリエーション豊か。ただ、全体的にギャグ色が強かった気がします。消化し慣れていないので、ちょっと胃もたれ気味。しかし、この人は本当に、どういう傾向の本を書く人なのでしょうか。娯楽小説?それとも純文学?ミステリー?ホラー?。どれにも当てはまりそうだし、どれにも当てはまらなそう。作家さんに興味を持つ、という点では、満点に近い短編集だったと思います。読みやすいし、文庫本でも出たら買おうかな。(新刊なので、何時になるかわかりゃしませんが)