ニシノユキヒコの恋と冒険/川上弘美


ニシノユキヒコの恋と冒険

ニシノユキヒコの恋と冒険


風邪中に読んだ本、第二弾。ものっすんごく、久しぶりに恋愛小説のカテゴリーを使いましたよ。この人の本はてっきり一冊ぐらい読んでるかと思ったら、どうやら長編はコレが初めてみたいです。確か「センセイの鞄」の前評判に押されて、途中で脱落したんだよなぁ…。でも、今回はちゃんと読めましたよ。




短編集なのですが、共通点はすべてにおいて「ニシノユキヒコ」についての話であるという点。様々な女性が、その時々の「ニシノユキヒコ」について語るのです。しかも、時列系に並んでいるとも限らない。いきなり小学生になったり、おっさんになったり、三十代になったり。そして、その時々でひどく神秘的な少年に見えたり、どうしようもないおっさんに見えたり、不思議な三十代になったりするのです。

この「ニシノユキヒコ」は語る女性の視点も、感情もすべて変わっているのに、確実に「ニシノユキヒコ」なんです。私にとっては、これが一番不思議でした。一つ一つを見えていけば、確実に性格も変わっているし、え、今度はこんな反応するんだ、と驚いたのですが、それでも、根本的なところで「ニシノユキヒコ」なんですよ。あぁ、うまく伝えられないのがもどかしい。そして、この「ニシノユキヒコ」は、女の人を愛する、ということが、…出来ないのかなぁ、難しいのかなぁ、とりあえず、「普通に」には出来ていません。だから、二股してたりとか今の彼女に昔の彼女を会わせたりとか、表面的には結構ひどいことをしています。むしろ、年を取るとそれに拍車がかかっていきます。私、はっきり言います、この男のこと嫌いだ、って思いましたよ。でも、でも、妙なところで素直で泣かれたりしたりしたら、もう、どうしようもないじゃないですかっ。表面的に嫌な奴でも、嫌な奴に思えない。…得な性分してんなぁ。何だか、どんどん「ニシノユキヒコ」にハマっていく自分がいるんですよ。そして、思い返すとまたハマる。……どうにかして下さい、この状況…。でも、ちょっと幸せ。

でもって、この話、語り手である女性たちが素敵なんです。もちろん、全く似ていない人達の集まりではあるのですが、去り際がしっかりしていたり、とにかく、「自分」をしっかり持った人達なんです。そりゃぁ、心は揺れるし、ちょっと「おい」な行動も取るけれど、芯そのものが揺れている感じがしない。だから、素敵に見えるのだと思います。最後の短編の子は、特に「おい」と思ったけれど、…状況考えるとすごいんだよなぁ。思い返す度に、すべての短編をもう一遍読み返したくなってきます。この感想を見てもらえれば判るとおり、私、この本に対してキャーキャー言っているだけなんですよね。だから、この本に書かれていることについて、もっと深く考えられるようになりたい。せめて、熱いけれど静かな心で読んでみたい。でも、すぐに読み返したいっ。文庫本も出ているようなので、買っちゃおうかな。数日後にしろ、数年後にしろ、読み返すのが楽しみです。