獣の夢/中井拓志


獣の夢 (角川ホラー文庫)

獣の夢 (角川ホラー文庫)


時々、発作の如く角川ホラー文庫の装丁に惹かれることがあります。黒い背表紙が好きなのでしょうか。




実はこの人も「SFが読みたい!」にランクインしていたのですが、ランクインしていた作品は「アリス-Alice in the right hemisphere」。作者の名前だけ追って、別の本に手を出すのは私の貧乏性的な癖でもあります。
そんなわけで、SF…の匂いが仄かにするような気がする作品です。
話は、二十三人の児童が小学校に忍びこみ、そのうちの一人が遊んでいるうちに事故で死亡。そして、残りの二十二人はその死体を損壊させる。遺体損壊を導いたとされる「宮城珠姫」という少女は「獣」を見たと執拗に繰り返した。
そして、時は流れ、九年後。病院にいる宮城珠姫は「獣」が戻ってくると予言すると、まるで過去の事件をなぞるかのように、同じ小学校に全裸のバラバラ死体が発見される。
まぁ、私がドキドキしたのは、小学生たちの遺体損壊事件の方だったのですが、この話は、あまりそちらには触れられません。うーん、とですね、私は警察ものが苦手ですし、人の名前を覚えるのも苦手です、そのせいか、物語が後半に行くまで誰が誰だか実はよくわかっていませんでした。と、いうか、この話のホラーの核心であるだろう宮城珠姫に唯一接触する人が、あんまり出てこないんですもん。私は、別に警察の推理が聞きたいわけじゃ…。で、さらに、この話、心理1科という、研究者たちが乗り込んできます。で、難しい話をしていきます。information(本当にローマ字表記なんです)がどうのうこうの、布石がどうのうこうの、一応真面目には読んでみましたが、言っていることが難解でありますし「これ」という一直線に伸びるメッセージであるように思えなかったので、読み飛ばした方が無難です。最後まで読んでも「言葉と人の心と無意識って複雑で繋がってるんだねっ」と私の認識はその程度でした。
このホラーは、「見えない何か」に対するものではなくて、人の無意識に関するものです。私の感性がさらに鈍感になる部分なので、まったく怖くはありませんでした。でも、好きな人ならたどり着くまで随分かかりますが、怒涛に無意識が繋がっていくさまはそれなりに楽しんじゃないでしょうか。
私は…ですね、そもそも、幾らショッキングな事件の現場報道でもあそこまで苛烈で「!」が多様する表現を必要とするのかなぁ、ということだけ気になっていました。
冷静になってしまってはつまらないとは思いつつも、ひたひたとした怖さがないので、どうも入り込めない。全体的に間延びした印象でした。
あ、でも、最後のほのぼのっぷりは…、可愛くていいなぁ、と思いました。思い返すと、あの場面が一番ホラーだったかもしれません。