忘却の船に流れは光/田中啓文



最近SFを読んでいませんでしたが、忘れてたわけじゃないんです。てなわけで、SFが読みたい!にランクインしていた作品です。




独特な世界観を持つと紹介されていたので、腰は引き気味だったのですが、予想外に面白かったです。
ずっと昔、世界を襲った悪魔から人々を守るために設置された壁、それに囲まれた世界は五つの階層に分かれています。そして、すべては「殿堂」によって管理されています。そして、住む人々も一つの事に秀でた七人種です。腕と足が六本ある「耕作物(はたらきもの)」六つの乳房を持つ「保育者(めのと)」蛸のような外見をした頭でっかちの「修学者(がりべん)」信仰を貫く「聖職者(すさのおいや)」治安を守る「警防者(さくらだもん)」、子孫を作る「雌雄者(いざなぎ・いざなみ)」そして、そのどれの特性を持たない「普遍者(ありきたり)」
一気に書くと息切れしそうですが、()の中に書いてあるルビがふってあるので、役目はしっかりわかります。癖がありすぎるぐらいにあるますもん。
で、聖職者で修行の身の「ブルー」は、修学者の「ヘーゲル」と保育者「マリア」と出会い、えぇ…とですね、様々なことをへて、ブルーはいじめにあったり、赤ん坊取り上げたり、ひたすらに堕ちていったり、芸術家を自称する人々と出会ったりして、えぇ…とですね、筋を説明するのが難しいのは、事態が二転も三転もするからです。ブルーの堕ちっぷりに目を丸くしてたと思ったら、今度は別の事態に「え?」となる。「殿堂」の暗さと怖さを見たと思ったら、今度はまたブルーの言動にツッコミをいれたくなる。えぇ、そんな感じです。
目まぐるしく変化していく状況と、独特な世界観なので、飽きることがありません。
そして、見事に最後に締めてくださいました。
賛否両論ありそうなラストではあるのですが、最後のエピローグから少し前の章から、ずーっと、毒気を抜かれっぱなしのようなものなので、ここまでやると本当に、素晴らしいと思います。読み返していないので、まだ疑問は残るっちゃぁ、残ってはいます。けれど、そんなのを破壊してしまう程の攻撃力です。
あれほどまでにブルーの心境と一緒に語ってきて、こういうラストにするって…、いえ、文句はまったくありません。目を丸くしたままま「ほぉ」と満足な息を吐きましたもの。結構グロテスクと性的な描写があるけれど、この作者さんの名前、しっかり覚えておくことにします。