ある日、爆弾がおちてきて/古橋秀之


ある日、爆弾がおちてきて (電撃文庫)

ある日、爆弾がおちてきて (電撃文庫)


「SFが読みたい!」の何年版だったか忘れましたが、ランキングインしていた作品。七つの短編を収録した、「ボーイ・ミーツ・ガール」ものだそうです。帯の文句は「私、爆弾なんです。しかも最新型ですよ?」
…ところで、「ボーイ・ミーツ・ガール」の意味って何ですか。




さて、収録されている短編に実際的なつながりはありません。同じところといったら、主人公が高校生くらいで、相手は絶対女の子、なあたりでしょうか。そして、共通のテーマは「時間」。あとがきに主人公と女の子の時間の違いが図にて説明されているのですが、とっても分かりやすかったです。「時間」ということに限定してしまっているのに、よくもまぁ、こんなにも バリエーションがあるなぁ、と。
一番のお気に入りは「トトカミじゃ」。図書委員になってしまった主人公は、図書館の奥で本を読んでいる幼い子を発見。どうやら、その子は神様で、この図書館に住んでいて、主人公は世話係に任命されました、と、さ。な感じのお話。この話、何が素晴らしいって、超ほのぼのした雰囲気です。トトカミ様は期待を裏切らずに、身勝手でわがままでつっけんどん。そして、それを暖かく見守る図書委員と先生。のんきに茶を飲んだりしているわけですよ。こういう話は数あれど、最後の締め方は多々ありますが、この話の締め方は、もろ、私の好みでした。切なくもありつつも、結局、ほのぼの。結構ベタベタな設定といい、目新しさは無いに等しいのですが、こういうのって、やっぱりいいなぁ、と思えるお話でした。
「おおきくなあれ」は幼馴染の女の子が、くしゃみをする度に記憶が退行してしまう風邪にかかってしまった、というお話。くしゃみをする度に幼児化していく幼馴染がかわいいのはもちろんのこと、実は、父親が交通事故で…、なんですよ。退行してしまった幼馴染はそのことを知らないわけです。子供に戻った幼馴染がかわいく無邪気な分だけ、せつない。ただ、基本的に明るいです。そりゃぁもう、相手は超無邪気な子供ですから。ただし、この話、最後は「んー」です。悪いとは言わないけれど、この短編集の中で、一番シュールかもしれない。
「出席番号0番」は肉体のないクラスメイトのお話。そのクラスメイト(h日渡)は、幽霊の如く、毎日クラスの内の誰かに憑依して生活しています。ふと気づいたけれど、私はこういう普通じゃない人達が普通に馴染んでいるのが好きなんだなぁ。話としては、学生生活の複雑な感情、なのですが、この日渡さんのぶっ飛んだ性格にゆえに、明るいです。終わり方、完全に楽しいギャグですし。こういう学生生活って面白そうだなぁ、と思いましたよ。
「むかし、爆弾がおちてきて」。昔おちてきた爆弾によって、時間が固定されてしまった女の子と、それを眺める少年のお話。表題作である「ある日、爆弾がおちてきて」とは何ら関係はないのですが、題名を似通ってるものを最初と最後に配置するって、素敵だなぁ。話の筋は、先ほど述べたとおりで、そんなに起承転結あるわけではありません。雰囲気もしっとりとしていて、くすり、と笑える要素もありません。ただ、しみじみとこの短編集を締めくくるにふさわしいなぁ、と思ったのです。個人的に、その後の世間の騒ぎ方とかを考えてしまうと、別の意味でハラハラしてしまうのですが、いいなぁ、と素直に思える最後でした。



他にも、表題作の突然あらわれた女の子が「私、爆弾です」と正に爆弾発言をする(失礼)話や同じ時と繰り返す死者との生活をつづった、暗くも静かな話や、窓の向こうに現れた女の子との交流をつづったSFの王道のような作品もあります。死者の生活をつづった話はおいとくとしても、共通しているのは、楽しいことや、嬉しいことがあって、切ないことがあって、そして最後に安心できる。そんなお話の集合体です。明るい話を読んでも「何だよこれ」と思う時とか、悲しい話を読んで更に気分を落ち込ませてしまう時に、ちょうどいいバランスで安心させてくる短編集だと思います。


あ、書き忘れましたが、表題作の時計がくるくる回るさまが、大好きです。