地を這う虫/郄村薫


地を這う虫 (文春文庫)

地を這う虫 (文春文庫)


いつか読もう読もうと思って、きっかけがない作者さん。レディ・ジョーカーは文庫が出たら絶対買おう、と決意していたのに、映画化しても文庫が出ない。で、ついに別の本に手を出しました。全面改稿された文庫版。まさか、レディ・ジョーカーも改稿してから出すつもりなのでしょうか…。



さて、この頃私が読んでいたものが、サクサク甘いクッキーだとしたら、こちらはかッたいしょうゆセンベイ。(ちなみに、私はどっちも好きです。)警察官を辞めた、元警官達ひとりひとりの物語。四篇収録です。
「愁訴の花」は、簡単に言えば、過去に同僚が起こした殺人事件の真実を探るお話。最初の頃は、この重厚で硬い世界に馴染むのに一杯一杯で、登場人物に感情移入する暇がなかったので、「へぇ」というものでした。一々世界が男くさいので、慣れるのに時間がかかるんですよ。この話に一番手は…空気が重すぎやしませんか。
「巡り合う人々」は、警察官から借金取りになった人のお話。とある工場に毎度脅し…らしきものをかけにいくと、警察官だった頃に知り合った少年と再び出会い…。この短編の中で二番目で好きなお話。謎も少しひねりがありましたし、何より、この主人公は感情移入がスムーズでした。最後は結局どうするつもりだよ、と言いたくはなりましたが…まぁ、突き詰めても悲しいだけだしなぁ、余韻がありましたよ。
「父が来た道」は、流されるままにいつの間にか大物議員の運転手になった挙句、警視庁との関係も続いたままの、なぜか一回り以上女性と交際中(?)の中途半端なお人が主人公。お決まりに議員さんが悪いことをしてて、それを「興味はないけれど知っている」という状態の主人公は、流されつつ、最後に決断します。まぁ、言い方悪いですが、普通によくできた話だなぁ、というのが素直な感想。私の胸がときめなかないのは、私が変わった人が好きだからです。
表題作「地を這う虫」は、警察を止めて、薬品会社と倉庫会社を往復する日々を送る人が、空き巣事件を解決する話。えぇ、この主人公、この話で一番変な人です。警察官時代は、何も成果をあげることができなかった、その思いもあり、空き巣事件解決にせいを出すのですが…、うん、一言で言えばやりすぎで、楽しいです。住民の人に気味悪がられたり、それを態々メモったり、特製の地図作って悦に入ったり。最後にケーキをぱくつく姿が何だか可愛らしくて、一番気に入った話。やっぱり、私は変わった人が好き。
全体的にいえば、あらすじにも書いてある通り、余韻のある終わり方が多かったです。私がもう少し、この重厚で男くさい世界に馴染んでいれば、もっと楽しめるんじゃないかな、とも思いました。ただ、気になったのは、元警察官の方々が特殊能力に秀でていること。警察官って、こんな風に特殊能力を知らないうちに磨いてしまうほどに、神経を尖がらせて仕事してるんでしょうか。…大変だなぁ。ここで「かっこいい」と思わないところが、私がいつまで経っても警察小説に馴染まない理由な気がします。
全体的に、優等生な面白さがあると思います。酸いも甘いもかみ締めた人なら、もっと楽しめるの…かも。