チルドレン/伊坂幸太郎


チルドレン

チルドレン


伊坂幸太郎さんというと、この頃続々と映画化されるわ、直木賞候補になるわで、あまりに有名になってしまって、手が遠のいていたのですが、久しぶりに読んで、ほっ、と安心しましたよ。連作短編、五編収録です。



伊坂幸太郎は、やっぱり伊坂幸太郎です。話は、一言でいえばぶっ飛んだお人「陣内」を取り巻く謎と人々。
時間軸は結構移動してしまうのですが、主軸は「家裁調査官」の「武藤」さんを視点としたお話。ある日、女子高生に裏切られて落ち込む「武藤」の元に、父親の顔色ばかり伺う、万引き少年がやってきます。この、「家裁調査官」ってのは、万引きやら何やらをして送致されてきた少年少女と面接して、「保護観察」なり「少年院送致」なりを判断するところのようです。しかし、この話、ミステリーではあるんですが、いつ謎が提示されたのかうやむやなまま進んでいくのが、いい感じです。種明かしをされて、あぁ、そうだったんだ、と思います。
謎の落とし方(この人の場合、解決でなく落とし方)も、相変わらず伊坂幸太郎らしいというか、登場人物の感情がいつもの通りで素敵です。念のためですが、褒めてますよ。この人が書く人は、どうして少し投げやりなんでしょうか。それが面白くて、大笑いはしなくて、この話を読んでいる間中、顔をほころばせてましたよ。
四つ目の短編「チルドレンⅡ」は、離婚問題やらなにやらで状況だけ考えていけば、深刻さ真っ只中なのだけど、「陣内」さんのぶっ飛び具合といい、視点の持ち主のちょっと投げやりな感じが、たらまなく心地良かったです。この「陣内」さんのぶっ飛び具合は、派手なわけじゃないんですよ。かっこよかったと思うと、反対のことを言い出したり、銀行の営業時間に文句を言いまくったり、自分の愛の告白に友人引っ張りだし無理やり野次馬させたり、と、周りの人々からやわらかく注意されてる、んー…子供っぽい面がある、ってのが近い…かなぁ。でも、子供でもあんなことはしないような…。でも、かっこいいところはかっこいいです。
銀行強盗が縁で知り合った「永野」さんや、その恋人の「優子」。んでもって、盲導犬の「ベス」も、一々キャラが立っていて、素敵でした。特に、ベスと優子の互いを牽制している姿がもう…おかしくて。
最後の「イン」はこの永野さんが主人公なのですが、ちょっとオチにひねりがなかったかなぁ。でも、この話は時列系がぐちゃぐちゃだった意味がよくわかりました。関係なさそうで、実は関係あるこの物語のつながり、かなり好きです。