犬はどこだ/米澤穂信


犬はどこだ (ミステリ・フロンティア)

犬はどこだ (ミステリ・フロンティア)


米澤穂信さんの探偵もの。すでに続編「流されないで(仮)」が発売時期未定で発刊予定があるので、ちょっと安心しました。何となく、この人のノンシリーズものって、いい評判は聞くんですが、読んじゃったら落ち込みそうな気がするんだよなぁ…。



さて、話は事情があって会社を辞めた「紺屋」が犬探し専門の探偵事務所「紺屋S&R」を開業するところから始まります。しかし、開業していきなり舞い込んできたのは、失踪した孫娘を探して欲しいとの依頼。紺屋の友人からの紹介であり、断るわけには了承します。そうしているうちに、学生時代の後輩がひょっこりやってきて、探偵を志望。なおかつ、いきなり古文書が持ち込まれて、調べて欲しいとの依頼あり。探偵ものというと暇である、という先入観があるのですが、何だかこっちは忙しい。しかし、「紺屋」は流されるまま、殆ど運命論者です。人の事情に踏み込まず、行方不明の女性「佐久良桐子」を探すということだけに、神経を集中。興味を出来る限り排除しています。ちなみに、古文書のほうは助手である後輩の「ハンペー」が請け負い、憧れの探偵と実際の探偵のはざまで、凹んだりしながら、結構楽しそうに調べていきます。何だかんだで、一番感情移入できたキャラがこの「ハンペー」でした。文章によって認識と知識が合わさったあの瞬間についての描写は、うんうん頷いてしまいましたよ。全体的な文体は軽くはあるのだけれど、実際には重い。甘い生クリームですかね。

んでもって、一見無関係に見えた二つの調べごとが、微かにリンクしながら最後へ向かっていくのですが、個人的に「佐久良桐子」が歴史に興味を持っていた理由を、きちんとして欲しかったなぁ。なんだかこの頃細かいことが気になってしまうせいなのでしょうが、繋げたくて繋げた、てな感じな不自然さを少し感じてしまいました。いえ、説明は幾らでも思いつくんですよ。「佐久良桐子」は頭のいい女性ですし。でも、何となく不自然。ま、違和感はそれだけです。

古文書のほうも興味深かったのですが、メインストーリーは主人公である「紺屋」の「桐子」捜索です。結構地味に電話かけたり、歩いてみたり、ちょっと新たな事実がわかっても、「紺屋」が淡々としているので、どんでん返しが続いたりするわけではありません。ただ、調べていくうちに「紺屋」は「桐子」との共通点を見つけていきます。「桐子」失踪の理由については、そっちの方面にいくか、と思いました。何となく、米澤穂信さんはそっち系の領域についての話は書かない気がしていたのですが、いい意味で裏切られました。んでもって、最後は…。ま、賛否両論ありそうだなぁ、というのが素直な感想。ただし、私は終わり方はこれでよかったと思います。他のどんな終わり方も似合わない。あぁいうラストだったからこそ、私にとっては考えさせる読後感になりました。見方を変えたり、暗示的な出来事を思い出したり、んでもって、タイトルを見て、ちょっと苦笑。確かに、言葉通り。話の筋が通ってるとかではなくて、パーツパーツのバランス感覚がかなり良い話。どんな続編かはわかりませんが、あのラストの奇妙な不安定さを残したまま、続けて欲しいな、と思います。