モノレールねこ/加納朋子 〆


モノレールねこ

モノレールねこ


久しぶりに読む気がする加納朋子さん。やっぱり、この作家さんには、菊池健さんの絵がよく似合います。てっきり、連作短編集かと思っていたのですが、何ら物理的な繋がりのない短編八篇でした。たぶん、初の短編集なの、かな。



〆でわかるとおり、全然反省してないですね。何でだろうなぁ。でも、必死で思い出して書きますよ。

まず、個々の感想をいく前に、少しだけ。この短編集、バンバン死にます。短編一つに対し、過去にしろ現在にしろ、死ぬ話が出てきます。でも、だからって暗いわけじゃない。むしろ、前を向いていて明るいんです。現実味があるか、と言われたら、それはありません。でも、ある意味でのファンタジーとして読めば何ら違和感ないですよ。こういう現実感のなさは、時々気分を萎えさせたりするのですが、文体のなせる技でしょうか。真に迫ってくる感じはしませんが、嫌味になってない。人って案外強いし、悪いことばかりじゃない、幸せってそれぞれじゃない、とほのぼので包みながら、こっち側へ伝わってくるお話です。

第一話は「モノレールねこ」。少年がデブで不細工なノラの猫を見つけたことにより物語はスタートします。どうやら、その猫にはもう一人、餌をやっている人がいるらしく、二人は猫を通じて交流をしていくのですが…。一言で言うと、甘かったです。それも、爽やかな甘さ。こういうのに弱いんですよ。主人公のちょっと天然ボケっぽいところとか。てっきり連作短編だと思っていたので、この二人が探偵と助手になんだぁ、と思ったのですが…それ以外に出番はなし。いいコンビだと思うので、続編書いて欲しいけど、このままはこのままでいい感じ。

「パズルの中の犬」は、真っ白なパズルを手に入れた主婦のお話。最初はしっとり系で進んでいきますが、主人公が過去を探そうとすると…。なんというか、「ずれた」話。いえ、的外れとかじゃなくて、人間関係などが「ずれた」時のあの居心地の悪い様がまざまざと…。最後はきれいにまとまってるっぽいのですが、………お幸せに。

「マイ・フーリッシュ・アンクル」は、この中で一番現実感が跳んだお話。初っ端から娘一人を残して家族全員が死にます。びっくりしましたよ。しかし、家にはいつまでたっても自立しない甘えん坊の叔父がいて…。しっかりしようとする主人公と、超甘やかされてきた叔父との会話は、ものすんごくずれてます。この叔父が「いい人」じゃないところが凄いところ。主人公が結構あっさりしているのが気になるのですが…、短編ですから。最後は、別の意味でびっくりします。

「シンデレラのお城」は、偽装結婚した夫婦と、旦那についてる前の奥さんの幽霊のお話。いえ…、さすがに私は夫婦の機微について色々言える経験は積んでいないので…、お幸せに。うん、何だかんだで幸せそうじゃないですか。たぶん。あんまり好きな類の話ではないのですが、最初の幽霊の妻との交流は好きです。

「セイムタイム・ネクストイヤー」は、やっと来ましたっ。正統派切ない系っ。死んだ娘の命日にホテルに行くと、娘の幽霊が出てきて…。といったお話なのですが、私の大好物の礼儀正しいホテルマンが出ているところが、ポイント高いです。予想は出来ても、意外なオチと、最後のしっとりしたまとめ方は流石。いいなぁ。主人公から少しずれますが、こんなホテルに是非とも泊まりたい。

「ちょうちょう」は、暖簾分けをして、開店したラーメン屋にまつわるお話。とりあえず、女性店員がかっこよくて可愛い。で、店主は基本天然。オチとしては有名なものがあるので新鮮味はさっぱりないですが、雰囲気がとてもとても良いです。

「ポトスの樹」ダメダメなオヤジと、オヤジが大っ嫌いな息子の話。このオヤジのダメっぷりは、凄いですよ。子供が河で溺れてても助けない。ゆえに、息子は自立心に溢れ、オヤジなんて「大っ嫌い」だと言うのですが…。最初はその嫌いっぷりに腰が引けましたが(罵詈雑言、苦手なんです)読み終わってみると、まったく、しょうがねぇなぁ、と苦笑と微笑の間の感じに思えます。最後はいい感じ。口の悪さに辟易しなければ、いい感じですよ。

「バルタン最期の日」小学生に釣られたかっこいいザリガニが語る、家族の話。良いです。もう、ベタベタだろうが、何だろうが、良いものは良い。ただ単に私がこういう動物視線の話に弱いので、それもあるのですが、バルタンが見る家族の姿の切なさがもう…!バルタンの最期がもう…!ベタベタです。けど、切ない。それでもって、後味が良い。で、かっこいい。最強です。


またまたダラダラ長い感想になってしまいましたが、んー…、個人的に好きなのは「モノレールねこ」「マイ・フーリッシュ・アンクル」「セイムタイム・ネクストイヤー」……すみません、書き出して気づきましたが、殆どすべてです。短編集というと、統一感があるかどうかが気になってしまうのですが、そういう意味では…んー、でしょうか。ないわけじゃないけど、「これ」とは言えない感じ。後、全体的に、いつもより文章に攻撃的な部分が多いです。悪態だったり、胸がざわざわする表現だったり。これからの加納朋子さんがどんな作品を書いていくのは、ちょっと興味が湧きました。