最後の願い/光原百合


最後の願い

最後の願い


てっきり「最後の願い」なので、病気ものとか、感動ものとかと思っていたのですが、良い意味で裏切ってもらいました。うん、こういう「願い」の方が好き。




そんなんで、七つの連作短編収録の本作は、えぇっと、一言で言うと、劇団結成までの仲間集めの物語です。基本的に、人がいて、謎があって、解いて、仲間。みたいな。こう書くと魅力に乏しく聞こえるかもしれないですが、素敵なんですってっ。筋は同じでも、流れは違うし。キャラクターが、そりゃもう素敵なんです。

「花がちぎれないほど…」は、とある文芸サークルに所属している女性の視点。サークルの十周年記念パーティーで「度会」という青年と知り合います。この「度会」が殆ど探偵役であり、劇団の主催者。謎は感情の機微というか何というか…、微妙な感情が入り混じった謎なので、解かれてもスッキリはしません。素直な感想は「…感情ってややこしいなぁ…」。けれど「度会」が強烈なキャラクターというのだけは、しっかりと判ります。あ、視点の女性も素敵ですよ。

「最後の言葉は…」一番のお気に入り。デザイナー「橘」の個人事務所に押しかけて、ものすごく安い賃金で働いてもらおうと交渉します。で、そこに女性がやってきて、その女性にまつわる謎を勝手に解いていく感じ。謎自体の説明は置いといて、素敵なんですって、この話。個人的に一番判りやすくて、良い読後感でした。女性のから回りっぷりが読み返すと悲しいですが、あぁ、でも、だからこそ素敵です。

他にも、大雑把な女優さんの幼少期の謎や、上品なおばあさんが語る、館の不気味な話、消えた女優に、幼少期の火事のトラウマ…。えぇっと、一本一本やっていくと、途方もなく長くなりそうなので、省略します。

でも、解かれた謎は物理的トリックでは全然無いゆえに、読後感は様々です。それでも、すんなりとちゃんと落ちています。人の悪意や恐怖やどうしようもない感情を扱っていることが多いので、完全に清清しいとは言えませんが、後味が悪い、または、嫌な感じに残るって事はありません。それって…素晴らしいことなんだろうなぁ。

そして、この話の魅力は、多面的なところです。劇団の仲間集めなので、基本的に前の話に登場した人物が、また登場します。そこで印象が変わってたり、時間が流れて立場が変化してたり、と言ったところがかなり面白い。主催の「度会」のイメージなんて、コロコロと変わっていきます。最初の話の神秘性がガラガラと崩れていったりとか。

最後の「…そして閉幕」は、もうこの一編だけ読んだってさして面白くないだろうけど、それまでの積み重ねがあるので、ものすっごく素敵なんです。一番雰囲気としては明るい。今まで登場した人が、あちこちで舞台を作り上げていく描写がいっぱい。で、私はここで「橘」さんに惚れ直した次第です。…自分の趣味がよくわかるなぁ。でも、他の人も本当に魅力的。結構いっぱい居るけれど、混乱しませんもん。ひとつのことを作り上げていく楽しさに溢れています。そりゃまぁ、悲しい話も付属しているのですが…、舞台っていいなぁ、と素直に思えました。

ミステリーとしたら、謎も謎っぽくないし、トリックもないし、驚くことも無いけれど、だからこそ、登場人物が光って見えます。そもそも「謎」だって、転がっているものじゃなくて、登場人物の中にあるものだから、謎っぽくないのも当然ですし。

少し癖のある文体かもしれませんが、だからこそ、また読みたくなる。続編…書かないかなぁ。