陽気なギャングが地球を回す/伊坂幸太郎


陽気なギャングが地球を回す (ノン・ノベル)

陽気なギャングが地球を回す (ノン・ノベル)


映画化までもされちゃった、伊坂幸太郎初期の頃の作品。続編まであり。というか、今のところ正統の続編が在るのって、このシリーズだけなんじゃないだろうか。続編書いて欲しいものは、山ほどあるのだけどなぁ…。




そんなわけで、四人組の銀行強盗のお話。伊坂幸太郎さんの話には本当によく銀行強盗が登場しますね。どこかの雑誌で今までの登場人物の相関図というものを見た気がするのですが、凄く入り組んでいて、既刊本を全部読んでからにしよう、と決意したのを思いだします。銀行強盗だけで何グループあるのか、って感じですよ。

で、銀行強盗四人組は、お決まりどおりそれぞれ特殊能力を持っています。正確な時刻を常に計り続けたり、人が嘘をついているかどうか分かったり、無駄と思える程の無駄な知識を持って、永遠と演説をぶてたり、とか。語り口は軽く、ライトに、少し癖を効かせて。個人的に、長々とこの四人の会話を聞いていても十分に面白いんじゃないかな、と思いましたね。今回はちと一人が大人しいので、いまいち四人がダラダラと喋っている様子、というのは描写されないのですが。というか、そんなに四六時中会っているわけでもなさそうだし。でも、結局、この四人の協力関係が作品全体の雰囲気をかもし出している感じ。甘くもないけれど、冷たくもない。「ギャング」につき物の、銃撃戦も裏切りも感じさせない。でも、ベタベタしていない。

話は、銀行強盗に成功したものの、失敗したところから始まります。意味は読んだらわかります。そして紆余曲折ありながら、何が起こったのか、そしてそれをどう解決するのか…といった感じに進んでいきます。面白かったのは、繋ぎ方ですね。「え?」と思わせて、次の視点でその解説が始まる。よくあることなのですが、この軽快な雰囲気とあいまって、いい感じです。相変わらず、ずれた、というか、洒落た、というか小気味良いセリフを喋ってくれますし。

ただ、謎としてはかなり弱め。謎を楽しむ、というよりは流れを楽しむ、登場人物を楽しむ、感じでしょうか。流れが最後に行き着く先も、ま、そんな感じ。勿論、面白かったですよ。ちゃんと多少なりともドキドキはさせてくれはしますし。ただ、もうこの絶対的な安心感があるので、面白いけれど、何となく結末が分かってします。だって、幾ら絶体絶命の場面があったとしても、その先が想像が出来ないんです。もう例え、どうしようもない状態になったとしても、こいつらだったらきっと大丈夫、といった雰囲気があるんですもん。多分、当人たちもどこか飄々とし続けていることでしょうし。まぁこの「安心感」が面白かったりするので、これは良いや悪いの問題ではないですね。

「陽気なギャング」の言葉通り、こんな銀行強盗が居たら遭遇してもいいな、と思ってしまいます。

四人組のほかにも、色々と癖があったり面白かったりする脇役もちゃんといますよ。確かになぁ、これだけキャラが濃いのが揃ってたら、映画化したくなるのも納得です。成功しかたどうかはしりませんが。話の中には「イジメ」やら「自閉症」やらのキーワードも出てきて、そういう所が捕まらない銀行強盗、といったリアリティのなさを現実的にありえそうなギリギリの範囲に留めている気がします。

うん、続編読みたいな。「日常」が題名に入っていたので、私が望むようなダラダラした会話が聞けるでしょうか。だったら、嬉しいな。