流星ワゴン/重松清


流星ワゴン (講談社文庫)

流星ワゴン (講談社文庫)


重松清の長編。結構分厚いのですが、読むのにたいして時間はかかりませんでした。セリフのやり取りが多くて、ページの余白が多いから…かな。ネチネチした文章ではないので、読みやすいですし。




話は辛いことが積み重なった「死んじゃってもいいかなぁ」と思った主人公が、とある不思議なオデッセイと出会うところから始まります。車には五年前に初めてのドライブで交通事故死をしてしまった親子が乗っており、主人公は過去の「大事なところ」へ連れて行かれ、なおかつそこで、自分と同い年の父親「チュウさん」と出会い…。
一言で言ってしまうのなら「父親と息子」の物語。母親と娘は、今回はあんまり関係ありません。「妻」は関係あるけれど。車は時間を越えながら、交通事故を起こしてしまった親子の話も交えながら進んでいきます。
んー…長い話なので、どう感想を言おうかなぁ。別に、話のストーリーとしてもそんなに好きなわけでもないし、話の終わり方もある意味で安堵してしまう終わり方で、衝撃も感動も私は感じなかったのですが…、それでも色んな意味で「いい話」だと思います。
私の好みが違うだけの話。それと、私が「父親」でも「息子」でも、せめて「親」でもないないせい。たぶん、凄い勢いで「父親と息子」というのは、それこそ「母親と娘」みたいに独特な世界を持っているのだと思います。んー…さすがに「息子」の気分になったことはないしなぁ。そういう意味では、私はこの話に感情移入など出来るわけがないんです。だって、わかんないもん。
それでも、何とはなしに伝わってくるものもあるわけでして、交通事故の親子の子どもの「健太」君の明るさがある時は救いにも思えて、ある時は痛々しさ…切なさ、かな、を伴います。
主人公の息子の現代っ子らしい普通さが少々残念でした。やっぱり…そういうキャラなんだなぁ、と。それと、受験の動機は結局なんだったんだろう。やっぱりゲーム感覚なのか…。んー、そこらへんが一番の消化不良です。ま、主人公の視点なので理解できない、ってのもひとつの理解ではあるわけですが。
あ、それと「チュウさん」が可愛すぎます。もう言葉としては間違っているんでしょうが、一々素敵。たぶん、身近にいたらとても嫌な人…というか怖い人なのでしょうが、その俺の考えは絶対だという勢いのよさと、それに隠された弱さがいい感じに現れてくれて、たぶん、この話の中で一番「弱い」人なのですが、それでも「強い人」。どっこにも私との共通点はないのですが、だからなのか、時々眩しく見える人。
後、主人公の鈍感さは苛々します。お前、お前…最初の頃なんて一番嫌いな人種だ。幸せを何の疑いもなく信じてる奴なんて、苦手だ。まぁ、だからこそ車に乗っちゃうわけなのですが、この主人公の心理の移り代わりが一番の醍醐味、かな。いっぱいまで後悔すればいい。主人公の性格が嫌だから、で逃してしまうには大きな魚過ぎるな。大丈夫、結局鈍感さは対して変わりませんが、知らないことを知っている、という事は重大です。


以下、少々ネタバレ




別に、流星ワゴンに乗ったからといって事実が変わるわけではないんです。それこそ、全部「夢」で済ませてしまうことも出来る。ま、主人公はそうはしないのですが。
事実は変わらなくても、何かは変わった。そういう物語。何だかんだで、最後に主人公「ま、頑張れよ」と思ってしまったあたり、何だかんだで主人公の好きになってたんだろうなぁ。ここまで男の人の感想が聞きたい、と思った作品は初めてだ。