アンハッピードッグズ/近藤史恵


アンハッピードッグズ

アンハッピードッグズ


えらく前にweb上で「この本いいんですっ」的コーナーで紹介されていて、気になっていた本。実際に手にするまで、近藤史恵さんの本だとは知りませんでした。この頃いっぱい本を出してくださったので、嬉々として後を追うつもりです。




パリに住む、恋人というには甘やかしくない「マオ」と「ガク」。「マオ」は三ヶ月前犬の「弁慶」の世話をして欲しい、と「ガク」に呼び出され、そのまま生活している。「マオ」の視点で話が進んでいきます。「マオ」はどこか無気力で、どこか投げやりで。痛いことが嫌いなんだろうなぁ、と読んでて思いました。そうして、まるでぬるま湯のような二人の生活に、いきなり石が投げられます。ある日「ガク」が連れてきたのは、空港にて鞄をすられてしまった新婚カップルの「睦美」と「浩之」。どうしようもないから、二人は泊まって行くこととなり。
上でのwebの話ではとことん暗くて救いようがない、との話だったので覚悟していたのですが、実際には少し肩透かし。確かに、粘着質な水の如くどこにも逃れることが出来なそうさな空気があって、息苦しさが伝わってくるのです(そういえば「マオ」が笑っている描写に覚えがない)。
「睦美」の初々しいまでの実直さが浮きだって見えるのも、そこなんだろうなぁ。まぁ、むしろこの新婚カップル事体が「マオ」が見ている世界から浮いているのですが。
パスポートなどが再発行される間、四人は観光に行ったり、ご飯を食べたりします。どうでもいいことだけど、ご飯が美味しそうで、ものすごくお腹がすきました。羊の脳みそだっていい、食べたいよぉ。
「マオ」は消却的というか、事なかれ主義というか、その生き方に私としてはちょっと共感してします。だから、新婚カップルがすれ違い始めても、特に何を言うわけではありません。ただ…少し、よくよく考えると、息苦しさから逃れるための何か、ってのを知らず知らぬのうちにしていたのかもしれないです。
もしかしたら、感情移入すべきは、この新婚カップルのほうだったのかもしれない。でも、私は「マオ」と「ガク」のが好きなんですよ。「ガク」のどこまでが計算でどこまでが無邪気なのか判断できない色んな仕草に、ついつい言うことを聞いてしまったり、黙ったりする「マオ」。「マオ」の性格は確かに事なかれ主義かもしれませんが、こんな男の傍にいるってだけで、実はそれって帳消しになるんじゃないだろうか。
暗い話だ、という先入観がとても強かったので、最後のシーンはいっそのこと清清しかったです。実は、これって、ハッピーエンドなんじゃないかな。
新婚カップルに感情移入してないと、そう思いました。
まったく関係ないけど、弁慶かわいいっ。この人が書く動物は、強く主張しないけれど、一々かわいい。


以下ネタバレ 反転



何も変わらなかった。ただ、それだけのことなんだけど、それって実はそんなに、悪いことじゃない気がする。最後のシーン、なんか、暖かかったもの。