片想い/東野圭吾


片想い (文春文庫)

片想い (文春文庫)


東野圭吾のすごいところは、文庫の分厚さに関わらず手にとって一気読みしてしまえるところだと思います。人間模様満載なので正直ミステリーでいいのかなぁ、と思ったりしますが、いいのでしょう。ミステリーだし。




そんなわけで、大学時代、アメフトサークルに所属していた人々の十年後の話。あの時、青春やってた彼らの関係は変わってしまったのか。同窓会の後、主人公の前に現れた、元女子マネージャー「美月」。しかし、彼女の姿は男性へと変わっていた。そして、彼女は自分が殺人を犯したと告白し……。

自首しようとする「美月」を匿いつつ、扱いに困る主人公。あらすじだけなぞっていくと、どこにこれだけの分量つぎ込んだ、と思います。どこだろう。焦点はずっと「美月」なので「美月」のことなのだろうけど。ちょっといろいろ大変そうです。推理とか状況とかの前に、目の前にある人間模様っ。彼女の昔の不可思議な行動やら、昔の彼氏やら、同じサークルだった妻やら、いろんな要素が絡まりつつ、主人公はなんだか「美月」をほうっておけない。そして、彼はとある事実に辿り着く。主人公、関係ないんだ、とかまわりに説得されながら行動的です。かなり。お前はどこの探偵だ、というくらいに。ミスリードはないので、要するに「事実」に辿り着くまでが紆余曲折なのだろうな。読んでいるとそこまで苦戦している感じはなくて、むしろ葛藤の方が大きい。さりげないセリフが読者をアワアワさせます。それ、その子に云って大丈夫…? 的な。

この葛藤にはまり込めるか否かで、この作品の評価は決めるかと。私はふぅーん程度だったので、結末までふぅーん、でした。個人的にその論理に納得はできるけど、最後に持ってくるのは卑怯じゃないかなぁ、という印象。いや、人間模様や性差に問題解決をついつい期待してしまったせいなのですが。その前に様々な方面から光を当てているので、満足といえば満足なのですが。

あ、でも最後は好きです。あぁいう人が私は好きだ。理性的なのに自分より他人を考える人。

一応、トリック云々もあったのですが、特別印象には残りません。だって、明らかに比重は人間模様の方にある。仲間の一人であった「須貝」の行動に首ねっこ掴んでガタガタしたくなったりますが、そんな彼がこの人々を「特異な人々」にしない最後の砦であったりして、よく出来ているな、と思います。

んー……まぁ、ジェンダーに興味があったらいかがでしょう、というのが素直なところです。その興味の差が如実に出てくるかと。あ、後アメフトのことがわかるのならきっと楽しい。たぶん、人物とポジションの性格がよくマッチしている……はず。