夢の守り人-守り人シリーズ-/上橋菜穂子


夢の守り人 (新潮文庫)

夢の守り人 (新潮文庫)


守り人シリーズえぇっと……第三冊目。柘榴的をサボっている間に随分読み進めてしまったのですが、これは機会があって読み直したので記述。




説明不用の日本発ファンタジーの大御所、なのかな。楽しいです。精霊の守り人から読み始めて、加速加速で一気に読み勧めたくなるインパクトと吸収力。舞台設定も凝っていて非常に魅力的。国同士の諍いや、二つの世界に交わり、同時に冷徹な政治性。もう、どれをとっても楽しい楽しいっ。ファンタジー独特の「この人たち主役級だから何あっても平気だよ」という思いをこれっぽちも抱かせない。中盤はいつもギリギリな緊張感に満ちています。で、今回は『花』という世界の話。
『花』は人を甘い夢で誘い、長い眠りにつかせます。いろんな人が眠ったまま起きない。それに危機感を覚えた主人公たちが動き出し……、というのがおおまかな話。「トロガイ」という強力な呪術師の過去話を含みつつ、話は進んでいきます。
『花』は現実に嫌気が差した人を眠りへと誘います。もう、この設定だけで切なくていい。ちょっくら説明が面倒なところはありますが(『花』の特性理解が……)、いいものはいい。
戦闘シーンもカッコよさよりも、必死さが滲み出てくる。あぁ……素敵だなぁ。
「歌」がキーワードでもあるのですが、これがもう、最高です。世界が開けていく感覚がまざまざと体内で再生されます。光は眩しいけれど、やっぱりいい。
精霊の守り人と比べたら、主な視点の人物たちに生命の危機が常時迫っているわけではないので、緊張感や緊迫感では劣りますが、何よりも設定が好き。『花』の世界が好き。歌い手の「ユグノ」に苛々しますが、それはもうある意味定められた感覚です。どんな性格な奴でも、歌がうまいものだからっ……。ほかの話と比べても、今のところいっちゃんやさしい話だと勝手に決めてます。現実がいやになるその心の揺らぎに目を付けているのが、いいな。ずっと眠っていたい、って思うもの。
ちなみに、この物語、食べ物ではじまり食べ物で終わります。幸せな食卓の様子で始まり終わる。その安心感が素敵過ぎます。それにすごくおいしそう。お腹がすきます。
ああっ、もう、なんだかちっとも魅力が通じてない気がするので、気になっているのならとりあえず手に取りましょう。正に骨太ファンタジー。心臓がドキドキして、きっと満足できますって。