モップの精は深夜に現れる/近藤史恵


モップの精は深夜に現れる (ジョイ・ノベルス)

モップの精は深夜に現れる (ジョイ・ノベルス)


「天使はモップを持って」の続編。前作の記事はこちら

前作の最後はあまり気に入っていなかった私ですが、主人公のキリコさんはやっぱりキリコさんでした。

奔放でありながら、しっかりしているキリコさんに惚れ直した次第です。




働く人々の前に現れるのは、はっちゃけた格好をした清掃員、キリコ。

前作では昼間のオフィスにいた彼女ですが、今回はある事情により、深夜から朝早くしか働いていません。そのさまがまさに「モップの精」のようで、キリコさんが前よりも生き生きしているように思えました。

連作短編集で、四篇収録なのですが、そのうち三編は悩める人々の前に颯爽と?モップの精が現れるのです。

娘に嫌われて落ち込んでいる間に、裏で進行していた計画。

小さな編集プロダクションで、嫌な取引相手に対して悩む人には事件。

二股かけられた挙句、なぜか嫌がらせが続くモデル。

こういうオフィスの状況は前作とは変わっていないけれど、今回はどこかからりとした明るさがあるように思えました。

謎も結構すっきり納得できました。ただ、編集プロダクションの話は語り口が軽くて深刻なところが書かれていないので、死人が出てくる話としては何だかもの足りなかったです。こういうミステリーなら当然なのですが、心理的葛藤とかが綺麗に省かれているもので…。

でも、最後のモデルさんの事件なんか、絶対明るい終わり方しないと思ったのに。私は短編では救いようがないより、こういうのが好きですね。

さて、残りの一編はキリコさんの家庭内事情のお話。

以下、前作のネタバレを含みます。

反転

キリコさんは、結婚してから一生懸命主婦業に励んでいました。何と、おばあさんの介護までしています。

所帯じみてしまって悲しい思いが過ぎったのは、最初だけ。

キリコさんは、突然一ヶ月の旅行に出ると行って、出てってしまいます。

で、前作の主人公(夫)はあれこれ考えて、不安になったりしているのですが…。

何だかこの話、全体的に甘い空気が流れていました。

本来なら、キリコさんこのまま出てってしまうんじゃないかと、こちらもハラハラするはずなのですが、何故か甘い。

その理由としては、主人公がやたら「きみが」「きみの」と考えるためでしょうか。

さて、この話の終わり方、大好きです。甘いの上等。ミステリーとしては、謎というものはあまり無いけれど、この短編の中で一番好きな話ですね。

反転終わり。


さて、続編というのはどうしての前作と比べてしまって、納得できる出来ってのがあまり無いけれど、これは続編の方が楽しかったです。

もし前作の最後の短編のネタバレしても別に良い、と覚悟できる方、んでもって、連作短編が好きな方、こっちからでも読み始めてはいかがでしょうか。