いつか記憶からこぼれおちるとしても/江國香織


いつか記憶からこぼれおちるとしても

いつか記憶からこぼれおちるとしても


ある長編を途中で挫折してしまい(でも、いつか必ず…!)伏線も推理も殺しもない話が読みたい、と江國香織に手を伸ばした次第です。
思いのほか、最近の本でした。




本当に、この人は日常を描くのがうまいのだな、と思いましたよ。
今回は、女子高舞台の連作短編でした。同じセリフが繰り返されるところがあるので、おそらく時間軸は同じように進んでいきます。
てっきり仲良し四人組で連作していくのかと思いましたが、途中途中に別の人の話も追加されていきます。
微かに重なり合っていたりして、何とか登場人物たちが、同じクラスにいることがわかります。最初の方の文章にその教室について「ワールドニュースみたい」と書かれています。
まさにその通り、沢山のものが重なり合った日常、様々なことが白日のもとにさらされない日常。
出てくる少女達に問題(本人はそう思っているふしはないけれど)はあるけれど、やはり、淡々と日常は流れていきます。
勿論、変化は起こります。もう、大きな変化から小さな変化まで。けれど、それも結局は日常とともに、流れていく感覚がします。こういうところが、やっぱりこの人はすごい。
出てくる人々の共通点はひたすらに同じ女子高の「クラスメイト」であることだけ。
むしろ、最後になってくると視点が少女から別の人に移ったりするので、もうわけがわからなくなってはきます。
話の起伏は「緑の猫」が一番合って、読みやすかったけれど、この本の真髄は、とりとめのない思考や、時間軸の曖昧さにあるのだと思います。
そういう意味では、「テイスト・オブ・パラダイス」が一番好きです。
疲れた頭を休めて、まったりした気分になりつつ、ドキドキして、目を丸くして、別の人の日常に紛れ込んでみたい方に、この本、いいかもしれませんよ。