死神の精度/伊坂幸太郎


死神の精度

死神の精度


帰ってきましたよーー!!

勝負がひとまず終了し、溜まりに溜まった活字中毒症を改善できる日がついに来ましたよー!

結果はまだ出てないわけですが、ま、いいや。うん、もしこの後にまた二ヶ月ほど音沙汰がなくなったら、察してくださいな。そんなことより、ひとまず本の感想です。




実を言うと、勝負日二日前ぐらいに読み終わった作品。我慢して我慢して、我慢できなくなった結果です。でも、でも、感想を書くのは我慢したんですよっ。(我慢するところが違う)。中身は、死神「千葉」と軸とした短編集。「千葉」は毎回、ターゲットに接近し、七日間を過ごします。そして、七日目に「可」か「見送り」かを決めるのです。大体の場合は「可」になり、八日後にターゲットは死にます。ただし、死因は自殺と病気を除きます。「千葉」さんいわく、その二つに死神は関わっていないそうなのです。どうして死神が居て、どうして「可」かどうかを決めなければいけないのか、は、「バランスが崩れる」とか云々の一言で片付けられてしまいます。本当に、ほとんど何の説明もない。むしろ、そっちの方があっさりしていて、いい感じでした。伊坂幸太郎さんが書く主人公に、粘着質に考えるのは似合わないんですよ。

で、「死神の精度」は、暗くて冴えない女性がターゲット。苦情係をしていて、しつこいお客に困っています。結構すんなりと、すぐに予想がついてしまって、別段ひねりがなかったのですが、後で題名を見て納得。この話、後の「恋愛で死神」で、ちょっとしたスパイスになってくれます。

「死神と藤田」は、導入部分とか、決着が着くまでとか、ちょっと間延びした印象だったのですが、終わった後に「かっこいいなぁ」と素直に思いました。阿久津君の暴走と千葉さんの超マイペースが面白い。もう一度読み返せば、最初の間延びしている部分の渋さとかっこよさをもっと感じられそうです。

「吹雪に死神」は、雪に閉ざされた洋館で次々に起こる殺人についてのお話。こういう館密室ものは私が苦手とする設定なのですが、まぁ…実際読んでる時は結構退屈でした。ごめんなさい。何か、パソコンに書かれた連続殺人文とかで、ドキドキしないから(私が)致命的なんです。館ものってところで、私の評価は下がります。でも、最後の締めでちょっと回復。千葉さん、淡々としてて最高です。

「恋愛で死神」は、七日間の間に惹かれあっていく男女の、男のほうがターゲット。死神がキューピットやってます。何というんでしょうか、男女の甘酸っぱさ全開です。最後はやるせなくてどうしようかと思いました。千葉さんは「死神」です。それだけのことなんです。でも、最後のシーンが鮮烈で、本当に、やるせないですよっ。まぁ、色恋沙汰話が苦手な私には少し砂を吐きそうになりましたが、それさえクリアできれば、切ないお話。

「旅路を死神」は、人を殺した男がターゲット。その男は逃亡に千葉さんの車をジャック。(死神側の策略通りに)旅に出ます。一番分量が多く、一番読み応えがある作品。憤る「森岡」(殺人犯)と、千葉さんの超マイペースな会話が素晴らしく楽しいです。えぇ、とっても、楽しいです。噛み合わない会話は、私の大好物です。でもって、楽しいだけじゃなくて、うーむ、と思うところもちゃんとある。仕込まれている謎とネタも手が込んでいます。撒かれているヒントに似た種の拾い方や、流れも情緒があって素敵。千葉さんのずれまくった魅力が満載です。

で、最終話「死神対老女」海の見える店を営む、一人の老女の元に、「千葉」は仕事に行きます。そして、正体をあっさりと言い当てられてしまうのですが…。伊坂幸太郎さんの話は、いっつも最後にくるり、と回って収めてくれるところが良いですね。本当に、ゆったりまったり、この作品の最後を締めくくってくれています。とても、素敵。今までの作品がなければ、ふーん、といったところでしょうけど、積み重ねでとても印象深い話になっております。


久しぶりに書いたら、随分と長くなってしまいました。あぁ、でも、やっぱり思い返すのは楽しい。この作品の魅力は、何といっても、千葉さんのずれっぷりです。「雪男は雨男の親戚か?」と超真顔で聞く人なのです。そして、音楽が大好き。ラジオを見つけては小躍りしたくなり、音楽が聴ければそれでいい、と超嬉しそう。ゆえに、ジャックされた旅路中も、ものすっごく嬉しそうにラジオを聴いて、森岡に気味悪がられておりました。あぁ、最高。「千葉」さん関連の話、もうちょっと書いてくれないかなぁ。