土の中の子供/中村文則


土の中の子供

土の中の子供


133回芥川賞を受賞した作品。風評で児童虐待ものだと聞いていたので、てっきり子供の話かと思ったら、その子供が大人になった時の話でした。短編「蜘蛛の声」も収録されています。



さて、まず「土の中の子供」
三ページぐらいで「この男、私の一番嫌いなタイプじゃないだろうか」と警戒しましたが、結構まともな人で安心しましたよ。
主人公は恐怖に依存していて、あまりうまく日常生活を送れていません。
うーん、細かな描写に一々現実的なツッコミを入れたくなりましたが(例・蚊は簡単に捕まらない)そう言うところを注目する作品でないので、良いんじゃないかな、と思います。
むしろ、その現実をどう受け止めどう表現しているかの話だと思われますので。
ただ、その描写があまり真に迫ってくる感じはしませんでした。うーん、話の筋としてはつまらないわけじゃないんです。ただ、なんだろうなぁ、迫ってくる感じがしないのです。いや、引きずり込まれるところもちゃんとあるんですけどね、それが継続してくれないのです。
でも、この話の最後、同居している女性とのラブラブっぷりに毒気を抜かれたので、恋愛小説としてなら、この最後でもうおなかいっぱいです。
後味悪い終わり方じゃないし、もう少し描写がすんなりしてたら、もっと好きになれた話じゃないかな、と思います。
さて、短編「蜘蛛の声」
個人的な趣味として、こっちのほうが好きです。
隠れている男の話なのですが、なぜか私の頭の中では女性で形が作られてしまいました。なぜ…。でも、男女云々の話はそうは出てこないので、違和感なかったです。
こっちの方が好きな理由として、「土の中の子供」で恐怖に依存する心理状態がいまいちわからなかったのですが、こちらは、かくれんぼを思い出して、すんなり入っていけました。
そりゃ、かくれんぼどころじゃ済まされない話なのですが、あの、よくわからないドキドキ感は同じだと思います。
そんなわけで、こっちの話の方が好き。落とし方も、私の好みでした。