家族の行方/矢口敦子


家族の行方 (創元推理文庫)

家族の行方 (創元推理文庫)


大掃除の時に発見しました。創元推理にはまってた時に一緒に買い込んだのだと思います。



話は、担当編集者に霊能力者と勘違いされた作家のもとに、人探しの依頼が舞い込みます。霊能力など持っていない主人公は断ろうとするのですが、息子の「勇起」に強引に押し切られ、結局探すことになります。えぇっとですね、霊能力は依頼を舞い込ませるためと、依頼主の性格を知らせるためにあったようで、以後まったく登場しません。なので、探し方とすると、興信所が調べた人々をもう一度たずねていくという方式です。
探し人は「明」という大人しい男子学生。しかし、さまざまな人に会いにつれて、彼の輪郭が曖昧になっていき…、そして、いつの間にか主人公の過去も暴かれていき…。
えぇっと、ですね。途中までは面白かったです。多少引っかかりを覚えることもありましたが、この息子の「勇起」君が、なかなかカッコイイ。少年や青年という言葉が持つイメージの、冷たいところと、不安定なところと、意思の強さとかがきれいにミックスされていました。母親(主人公)との関係も、バランスがよかったです。
で、探し人を追い求めていろいろするのですが…、途中で「明」につながる大きなものも見つかって、それに一章割いています。これも面白かった。突っ込みどころとしてこっちのほうがあるのですが、田舎暮らしに対する偏見や理想が現実の描写に入っていなくて、よかったです。心理も面白かったです。このときは、面白かったなぁ。
と、いうのも、問題はラストです。はっきり言えば、私、このラスト嫌いです。せっかく丁寧に書いていたのに、いきなり流すようになったような感じがしたのです。なんというか、この落とし方はものすっごく納得がいかないのです。偶然がどれだけ重なろうと文句は言いません。現実の話じゃないんですから「ありえない」とは言いません。でも、もうちょっと説明あってもいいだろう。もう少し補強してもいいでしょう。そもそも、依頼は人探しでしょう。いきなり方向転換があった挙句、あとで無理やり繋がりを持たせたような、なんともいえない違和感がしました。後、これは個人的趣味ですが、あの二人はくっついちゃいけない。酒の勢いでそんなことになっていいのか。あと、一番気に入らないのは、勇起君の最後です。いきなりそこまで突っ走っちゃ、せっかくの魅力が台無しに…。いや、そもそも謎が解けた時点でもう終わりだったのか…。悲しい。
…えぇっと、文句ばっかり言っていましたが、これは完全な私の趣味ですね。ミステリーとしてロジックがあるわけでも、推理する手がかりが隅々に隠されているわけでもないですが、話として大きなほころびがあるわけじゃないのです。実際、魅力的なところもありました。途中までは、十二分に面白かったんです。ただ、ラストが嫌い(もういい)。
たぶん、この人の話の手を伸ばすことは…なさそうだなぁ…。