黒冷水/羽田圭介


黒冷水

黒冷水


風の噂で著者がものすっごい若いことだけ知っていた作品。何でも最年少で第40回文芸賞受賞したそうで。

注・出来るだけ気は使いましたが、ちょっとネタバレになっているかも。先入観なしで読みたい人は、止めといたほうが無難かもしれないです。



話の筋は、ものすっごい仲の悪い兄弟の抗争記。兄「正気」の部屋を弟の「修作」があさっている所から話は始まります。弟の「修作」はすっかり自分の手際の良さにうっとりしながら部屋をあさりまくっているのですが、兄の「正気」は実はそのことに気づいていて、弟に対する怒りを倍増させています。まぁ、別にきっかけが云々はどうでもよくて、行動ではなくて、お互い、存在が不快なんです。相手が何をしようと、イラついてしまう。で、兄の部屋に忍び込んではむふむふしてる弟に、嫌がらせを返しつつ(ネットでエロ動画見てるのを親にバラそうにしたり、とか)抗争は激化していくわけです。
おーい、とツッコミらしいものを入れたくなること多々。いえね、抗争が激化しようと激しい感情があろうと、「ある」と言われればそれまでなのですが、攻撃方法に「母親に言いつける」ということが含まれているのが、微笑ましいような違和を感じるような…。でも、これ、高校生と中学生の兄弟なんですよね。それを考えると、そんなに変なことじゃないのかなぁ。兄は本人的にはとてもまともで、実際、弟のことをボロクソ言うだけあって、その視点だけで見ていくと、良識ある人です。個人的には、唯一の役割のある脇役といっていい、青野さんがお気に入り。私は自分だけの美学や価値観を持った人に弱いんです。この人の役割について、ちょっと強引過ぎないか、と思いはしましたが…うん、まぁ…ねぇ…。青野さんはある意味でまともな人だと信じたい。で…ですね、さっきから何でこんなに歯にものが詰まったような言い方をしているかというと…困っちゃんですよ。このラストを読んで。
文章もやわらかすぎず、かたすぎず、丁度いい感じで、ストーリーも多少言動にツッコミを入れたくなったけれど、面白かったんです。最後らへんで、妙な違和感は感じてはいたんですが…、ねぇ。
思いっきりネタバレになってしまうので言えませんが、まだ何とかすっきり終わりそうな雰囲気だったのが、破壊されてしまったこの気持ち。どこからどこまでが作為で、著者がどこまで計算して書いたのか、ものすっごい気になります。破壊力があるわけではないんですよ、仕掛けてあるのは一本きりなので、「もしかしたら」と思う人はすぐに思ってしまうでしょうし。ただ、言い方悪いけれど、その後のフォローがないんだもん。いや、あったらあったで困るんだけど、せめてその背景とか書いてください。じゃないと消化不良でムカムカします。これ、最後の仕掛け前をちょこちょこ直せば、それはそれで、すとんとしたきれいな話になりそうなんです。そりゃぁ、登場人物に好感持てないままだったでしょうが、流れは良し、だったんじゃないかなぁ。それを壊してまでも、書きたかったものって一体なんだったのか、が、わかりません。
ただ、この話だけで、この著者さんの書く系統わかったぁ、とは言えません。こんな話を書かれしまったら、次、どんな話を書くのか見当つかないんですよ。歌野晶午さんみたいに、なるの、かなぁ。この話としては、面白かった、というより、印象に残った、といった感じです。いまだに胸がもやもやしてるんですけど、これも、味、なんだと思います。あ、伏線の回収不足とか、矛盾とかはないで、ご安心を。



黒冷水 (河出文庫)

ちなみに、文庫も発売中。文章のつけたしとか行われるのかな。だったら、こっちも読んでみたい。