グラスホッパー/伊坂幸太郎


グラスホッパー

グラスホッパー


どうやら、今の私は伊坂幸太郎が読みたい病にかかっているようです。ちなみに、これを読んでいる時も実際に38度の熱を出しておりました。風邪のおかげで、途中くらくらしてましたよ。



さて、話は何人かの殺し屋さんにまつわるもの。視点は三つ、復讐をするため悪徳商業に無理に勤める「鈴木」。見た人をどうやら絶望的な気分にさせる「自殺屋・鯨」。そして、使役される側にいる、家族皆殺しを得意とする「蝉」。この三人が少しずつ近づきながら、そして、すれ違いながら、話は進行していきます。話のきっかけは、「鈴木」の仇である男が、「押し屋」によって殺されること。この、一人の「押し屋」が鍵になって一つの物語を紡いでいきます。他にも、悪い商業に手を出している女性や、「蝉」の上司やらも出てきますが、人数としては、いい感じ。ちなみに、私は「蝉」と上司さんが一番好きです。作り方としては、微かに繋がりながら最終的に一つのところで終結する。何だか、ドタバタコメディにでもありそうな作りではあります。
けど、この作品、空気がけっこう、重い。伊坂幸太郎さん独特の、ちょっとずれた主人公のおかげでクスッ、と笑えることもないですし、「鈴木」さんのパートの最初なんて、こっちの胃がちょっとしくしくしてきましたよ。まぁ、胃痛の原因の九割は風邪のせいだったのですが、それでも確実に影響はありました。んー、この作品、たぶん、一言で言えば「意欲作」ってことになるのだろうな、と思います。「問題作」と言うには、そんなに刺激はない。いえ、普通の学校出て、普通に就職して、という人生を歩んでいれば、絶対的に関わりにない世界のお話なので、刺激たっぷりと言えば刺激たっぷりなのですが、登場する人々がさもそれが当然、として受け入れるので、あんまり違和感や驚きがないんですよ。実際的に、あんまりリアリティも感じませんでしたし。ただ、よくわからないけれど、意気込みは感じます。伊坂幸太郎さんの別の本のことがちろっと出てきたりとか、一番は雰囲気が、明らかに、今までに読んできた伊坂幸太郎さんの本とは、随分違います。
まぁ、それでも私の中で殺し屋といえば「桜」なので、それを超える人が居なかったのが、ちょっと残念でした。話はラストになると、どうなるかな、と興味は湧きますし、ちゃんと他にネタも仕込まれていていい感じ。「鈴木」関係の後半ネタは、この話の雰囲気から少し浮いていて、さらに現実感がなかったのですが、んー、あれはあれでいいのかも。読んでて一番どちらの意味でも「楽」でありましたし。でも、あれが救いになるかは、正直微妙。というより、後味が少々悪いです。どうせなら、もっととことん暗く、どん底まで行っちゃってもよかったじゃないかなぁ、と思います。特に最後は暗いといえば暗いのですが…、「どうなるの」ではなく、「へぇ、今度はそうなったかなぁ」な感じでした。あ、でも、「蝉」さんは良いですよ。とても、私の好みってだけの理由なのですが、暗くもなく、かといって軽すぎでもなく、不幸でもなく幸福でもなく、「蝉」さんのパートが私にとっては一番感動的でした。だって、だって……。あいつら、何だかんだで仲良いんだもん。ただ、もう一回読み返すかと言われれば、他の人が微妙で…。「鈴木」パートは登場人物が豊富で面白いのですが、「鯨」がなぁ…。この人の能力が突出し過ぎていて、なおかつ、亡霊に苦しんでいたりするので…、んー、あんまり私の琴線に触れないんだよなぁ…。パートごと、それぞれ面白かったらよかったなぁ。でも、1パートぐらい、自分の好きなパートを見つけられるかもしれません。


注・熱を出しながら読んだことなので、今回の感想は特に、あてにならないかもしれませぬ…。


後、まったく関係ないんですが、本の画像がいやにキレイでびっくりしました。何だか、銀色に光り輝いていますが、実際的には白に金の細かい模様です。しかも、デザインまで違って見える。んー、ライトの当たり方ってかなり重要なんですね。