シュプルのおはなし/雨宮諒



さてさて、外出先で読み終わった作品。私にとっては結構珍しいことだったりします。短編四つ収録。すんなりと素早く読めました。




主人公「シュプル」は毎日おじいさんのところへ預けられます。このおじいさんに預けられるまでの描写は、四篇でいつも同じ感じで、まさにお話をはじめますよー、感に溢れています。長めの「ある時代のあるところで…」みたいな。で、「シュプル」はおじいさんが苦手で、いつも「ムルカ」が主人公の小説を読んでいたのですが、ある日、物置で大きな宝箱を発見。おじいさんの宝物を入れてるというその箱の中身を見つめ、「シュプル」は自分の考えた、おじいさんのお話を一緒に遊んでいる女の子にはじめます。

「シュプル」の想像力に突っ込んではいけません。確実に子供じゃないだろう、と思わないこともないですが、いいんです。「おはなし」ですから。後、「シュプル」が語る話には「シュプル」という子が登場し、「ムルカ」という男も登場します。じっちゃんの思い出(想像)話じゃないじゃんっ、ということで暫く違和感があったのですが、いいんです。そこで突っ掛かっていても、良いことないです。

さて、話は四篇収録。

個人的に好きなのは「夢を掘る人」とある寂れた村で「シュプル」と「ムルカ」が井戸を掘る話なのですが、意味が無くてもやり続けるのって、素敵だなぁ、と。少し視点をずらせば、無意味になった井戸を掘るのはもう、本当に無意味なのですが、それでもいいな。結構ドキドキしたのは、引きが長かったためです。無口な人最強。んー、最後は、ま、よくも悪くも「おはなし」です。後「愛の言葉」の設定がけっこう好き。風船売りの女性に恋した「シュプル」が毎日毎日せっせと靴を磨きながら、彼女の風船を買うのですが…。登場する馬鹿貴族がすがすがしく悪役です。のりが軽い軽い。他にも、兵士に渡された「天国への片道切符の銃弾」の話がありますよ。最後の「我が愛しきギャングスター」は、登場人物が一気に増えます。少し異色気味なお話で、一番流れとしては面白かったです。ただ、登場人物の関係把握がちと大変。いえ…私の苦手分野だからなので、普通に読めば理解できるのかもしれませんが…。ギャング系は、少し面倒じゃないですか…。最後のオチが、話の中で一番素敵です。

さて、四つの話はすべて「シュプル」が想像力全開で語った話なので、実はその裏に本当の話があるわけです。結構気の抜けるオチが多いこと多いこと…。でも、おじいさんはそのことを「シュプル」に告げません。よって「シュプル」は今日もおはなしを語ります。

全体的に言えば、ほんとうに「おはなし」の集合体。すべてがハッピーエンドっぽいんですよ。そりゃぁ「シュプル」が「シュプル」が悲しませて終わり、なんて事はありえませんから当然なのですが、ゆえに、少し安心してしまうのが、難点。んー、話に、目新しさはありません。流れだけ見ていけば、どこかに在りそうな話です。でも、だからこそ、この本は成立してるんじゃいかな、とも思いますね。強烈に惹き付けるものはないけれど、味はあります。ただし、まだまだ薄味かなぁ。どうも、雰囲気が素敵っ、や、設定が素敵っ、とは断言は出来ないです。

シリーズ化しているようなので、おじいさんの宝箱が空っぽになるまで続くのでしょう。雰囲気や話の流れがもっと濃くなってくれていれば、嬉しいなぁ。とある時にふと、読みたくなる本なのかもしれないです。