タナトス/村上龍


タナトス (集英社文庫)

タナトス (集英社文庫)


村上龍というとかなり昔に「イン・ザ・ミソスープ」を読んでからずーっと遠ざけていた作家さんです。それでも、一冊で判断して食わず嫌いはいけんだろう、とかなり久しぶりに手を伸ばしてみたのですが…。




どうして私は選ぶ本を間違えるのだろうか。うん、いい悪いはまずは置いておいて、絶対にこれは入門書じゃない。絶対に違う。どちらかというと、何冊か読んでいるうちに辿り着く、マニアック部門に入るんじゃないだろうか。えっと…ですね、話はキューバで細々とカメラマンをやっている日本人の男が、ちょっと偶然的に狂った日本人の女優に出会い、長々とその女優の話を聞く、というもの。女優は素晴らしく狂っていますよ。最初はそりゃもう読みにくいったありゃしないセリフを喋るのですが、後になるにつれ慣れていくのか、まともになっていくのか、ただ単にある程度の流れのある話を喋り始めるからなのか、ま、読みやすくなっていきます。

話す内容は、昔「先生(ヤザキ)」という男に飼われていた、というか、今も飼われている?的なもの。いやもう、話しているストーリーだけは理解できても、何が言いたいのかを理解するのを放棄したので、私にとってはもうどっちでも良いのです。多分、女優本人にとってもそこらへんはどうでも良いんじゃないだろうか。何となく。ま、その「先生」からはきっぱり別れを告げられているので、過去形が正解なのですがね。

話としては、どうなのだろうなぁ。一部ひきつけられる場面もあったのですが、持続はしないわ、時々比喩に引っかかるわ、で集中できなかった。でも、これだけの狂った文章を書ける体力と想像力には感服ですよ。

で、まぁ、男は男でぬぼーっとしてるんだが、ぼけーっとしてるんだが、ただ単に何も考えていないのか、視点の持ち主のくせに影が薄い。ま、女優が長々と喋っているのだから、当然なのですが、時々、あぁ、こいつの視点だったな、と忘れかけたことが幾度か…。うん、まぁ、それも味なんでしょう、きっと。

それと、最後の別の本の紹介を見ていて気付いたのですが、これ「ヤザキ」シリーズだったみたいですね。他にも「ヤザキ」が関わっているっぽいのが二冊ほどあったので。ま、それを読んでいたからといって楽しめるとも限らない、とは思うのですが、それでももっと流れを追うのは簡単だったのかな。

最後の最後らへんで、女優の狂っている理由、というか、女優が何者なのか、という問いにある種の答えが出るのですが…、理解できない。わけわかんない。へぇ、としか思えない。そこに、わくわく感も失望感も生まれない時点で、もう私はこの本とある一定の距離を取ってしまっているのだと思います。もう、何を言われても驚かないかわりに、何が起ころうと響かない。…間違えたなぁ。結構痛恨です。うーん、結構ぶっ飛んでいる文章なので、この人の落ち着いた、冷静な文章を読んで、それでも「んー」と思ったら、苦手の部類に入れた方が良いのか…なぁ。

とりあえず、判断保留。ま、初めての人はきっと読んじゃダメです。