サマー/タイム/トラベラー1/2/新城カズマ


サマー/タイム/トラベラー (1) (ハヤカワ文庫JA)

サマー/タイム/トラベラー (1) (ハヤカワ文庫JA)

サマー/タイム/トラベラー (2) (ハヤカワ文庫JA)

サマー/タイム/トラベラー (2) (ハヤカワ文庫JA)


結構前から読み始めて、ひと休憩入れた後、一気に読んだ本。えぇ、こんなにも差し迫ってくる時間がもどかしかったのは初めてですよ。必死で読み終えました。


*一応ネタバレなしですが、何だか何かが溢れ出しそうな気配なので先入観なしが良い方は止めといたほうがきっと無難です。本の内容はおススメです。




涼ーー!途中から心の中で絶叫したのは私です。えっとですね、話は頭の良い四人の学生が集まって喫茶店でだべっている感じではじまります。何だかここら辺で学生運動時代あたりを思い出していたのですが、どうやら年としては現在に近い…のかな。数年単位のずれは生じてそうですが、舞台としてはどこかの田舎…まぁ、微妙に私の知っているところのような気がしなくもないのですが…それは、置いといて「未来がない」と主人公達が言う町です。
で、四人のうちの一人「悠有」にタイムトラベラー能力が生まれたことにより夏休み丸ごとを使った「プロジェクト」が始動し…。
うん、違う。あらすじをとりあえず書いておきましたが、これは違う。筋としては間違ってはいないんですが想像物とは全然違うものです。何というか…確かにタイムとラベル能力によって巻き起こる物語なのですが…まぁ、その間によくわからん理論をぶつかり合わせたり、夏祭りに行ってみたり、喫茶店に集まってみたり…、結局無駄と思えることの繰り返しが積み重なっている結果の物語なので、ひとつひとつが重大であり、それだけで意味を持っている感じ。で、結局こいつらよくわからん理論やらなにやらべらべら喋っているけど、まぁ、それがたまに偉そうに見えることもあるんですが、最後らへんになって出てくる年相応なところが卑怯なくらいに素敵です。
頭が良くても、最後らへんまで隠されている根本の根本の根本は、共感しちゃうじゃないかっ。それまでは頭の良い特殊な集団だと思っていたのにっ。少し幼く思えてしまうほどのその感情は青春につき物過ぎるっ。
あぁ、もうっ。じれったいっ。何がじれたいって、これがどんな風に面白いのか伝えられないのですよ。
流れとしては最初はかなりゆっくりで、どんどん加速していきます。最後らへんのノンストップはもう、ドキドキともワクワクとも違う緊迫と緊張と期待で胸が高鳴っておりましたよ。不思議な感覚でした。あぁいうふうに流れを持っていくのは、素敵過ぎますって。
最後まで読み終えた時に、最初のゆっくりさ加減がフラッシュバッグしてきて「あぁ、そうだったなぁ」と思ってしまうあたりもう、青春小説の碇石踏みまくりなのに、それに見事にハマってしまった自分が少し悔しい。
実を言うと、この小説、かなり思わせぶりなんです。ずっとずっと「あの時こうしていれば」とか「その時は気づかなかったけれど」とかが頻発します。そこで気になる人は立ち止まってしまうかもしれませんが、基本無視して平気です。だって、終わりますから。
後は…色んな理論を繰り広げていきます。もう頭が追いつくとか追いつかないとかの問題じゃない。何となく言っている意味がわかって、ちょっと自分の頭が良くなった気がしました。
うーん、話の頭から終りまでが全部必要に思える小説ってのも珍しいなぁ。筋を追うだけなら本当に無駄な場面が多すぎるくらいなのですが。
この独特な色を再現できるのならば、是非とも映像化でもしていただきたい。パンフレットの写真で陥落する気がします。
それと、ですね。私は一番最初に叫んだのは集団の中の一人なのですが…涼ー!もう、首ねっこ掴んでガタガタしたい気分でいっぱいです。嫌いの反対の意味で。一巻の半分くらいのところで「あ、この人好きかも」と思った時点で私がこの本に関してこんな長々しい感想を書くことは決まっていたのかもしれません。もう、言葉にならない。とりあえず、叫びたくなります。いえ、むしゃくしゃするとか、消化不良とかじゃなくて、いい意味で。あぁ、もうっ。かっこいい、かっこいいけどかっこ悪いよ。何なんだ、お前は。彼の行動をトレースするためだけに今すぐ読み返しそうな自分が怖いです。
えぇっと…ですね、結局、カテゴリーとしては青春SF小説なのですが、うーん、好みが分かれそうだな、と思います。特に四人で永遠と話しているところ、とか。最後の加速が来るまではかなりまったりとしている(途中途中で引っ張りは入りますが)ので、そこで諦める人も多そう。そもそも…どんな人に受けるんだ、この本。
…ま、私はかなり好きです。南のほうに住んでる人、夏が終わる今にこそ読んでみたらいかがでしょうか。夏の終りに似合う本です。