そばかすのフィギュア/菅浩江 〆


そばかすのフィギュア (ハヤカワ文庫 JA ス 1-4)

そばかすのフィギュア (ハヤカワ文庫 JA ス 1-4)


菅浩江だぁ、と表紙を眺めながらどのくらいニヤニヤしたことか。実はここに収録されている短編の殆どが収録された「雨の檻」も持っていることに、ついさっき気付きました、装丁としてはどちらもお気に入りだから、いいや。えへへ。




「雨の檻」は、ロボット「フィー」と二人きりで過ごす「シノ」の話。雨のように切ない感じに溢れています。狂っていってしまうロボットの描写は秀逸。よく見る話、と言われればそうかもしれないけれど、最後の詩的なセリフが素敵です。…ちょっと〈中枢〉の肩をぽんぽん叩いて「お前なぁ」と言ってやりたくなりますが…。

「カーマイン・レッド」いじめられている美術専門学校の学生と「ピイ」と呼ばれるロボットの交流記。「ピイ」といえば「プリウスの瞳」でも出てくる専門型ロボットの名前でもあるわけですが、あぁ、この頃から基はあったのだなぁ、と思うと話とはまったく関係ない感概が湧きます。話は「私は人間ではありません」というピイの繰り返すセリフに終結されている感じがしますね。うん、でも…さ、そういうことするって、どういうことさ。な、と泣きながら微笑みたくなりますな。

「そばかすのフィギュア」表題作であり、お気に入り。話としては結構ベッタベタな片思いアンド失恋ものなのですが、フィギュアが動く、そのフィギュアに託した思いがある、ってだけでかなりわかりやすい。そして龍が登場するのが私にとっては凄く嬉しい。主人公が想像して逃げてばかりいたけれど…。考えてると、色々ベッタベタ。でも、読んでいる間はそれを感じさせないし、そしてまた、それが心地良い。少し元気になれる話でした。

「カトレアの真実」は、女の一人称で語られる薄っすら背中が寒い話。前の「そばかす~」が可愛らしい女の子の片思いだとしたら、こちらは「女」の暗い熱情です。体を売ることを商売にしいて、なおかつ、病気になった女の元によって来た男のほんとうの姿って…。ぞっとするなぁ。「女」って、何でこんなに怖いのさ。

「お夏 清十郎」は、清らかなお話。技術が進歩して、過去へ行ける出来るようになり、江戸へ歌舞伎の習得に向かう一人の女性が主人公。何度も過去に行ったため、もう踊ることさえ出来ないその体。…鮮やかに美しかったです。そして夢月の強さとかっこよさと可愛さが、良い。

「月かげの古謡」は、この本の書き下ろし。物凄くファンタジーが強いです。森の中でとある女性とであった、とある国の王子。女性と王子は禅問答のような問いを繰り返し、聞けば女性はこうして私の国に王女に相応しい男性を探しているのだという…。どこかの児童文学に迷い込んだのかと思いましたよ。そのせいで、少し入りにくい感じを受けたのですが、読み直すと素直に「いいなぁ」と思えました。これも王道といえば王道。…でも、出てくる女性が素敵過ぎてどうしよう、な感じ。そして獣がいい。王子はずっと反省してればいい。

そのほかにも何個か話はあるのですが、たまに「あぁ、もう」とどうしようもないことを判っていつつも、心臓が痛い話があったり、消化不良というより消化不能な話があったりしましたが。うーん、全体的に「雨の檻」って言葉があるように、切ない感じが多いのかな。というのも、この中で現実で実る恋愛や友情はないから。どの話も、どこかに、なにかが抜けているのですよ。「雨の檻」に他者がいないように、「そばかすのフィギュア」の最後のように。だから、切なさだったりやりきれなさだったりが描かれているわけなのですね。でも、こんなにも書き分け、というか、雰囲気の違うものが詰めあわされているって、結構お得だと思います。洋風あり和風あり、三人称あり、一人称あり、ホラーあり、ラブロマンスあり。旅行に持って行けば、飽くことないかな。…気分と合うかは別問題ですが。