少女/湊かなえ


少女 (ハヤカワ・ミステリワールド)

少女 (ハヤカワ・ミステリワールド)


現在「告白」が大ヒット中の作者さん。なんとなく本格ミステリー+硬い文体のイメージがあったのですが、実際にはそんなことはなく、どちらかというと軽い。これは今作が女子高生の一人称で構成されているから、かもですが。



さて、主人公は二人の女子高生。理性的で無表情、痴呆の祖母を持つ「由紀」。過呼吸持ちのまわりと同調しよう意識しすぎて逆に浮いてしまう「敦子」。主に二人の視点変換で話は進んでいきます。ある日、共通の友人「紫織」から彼女の遭遇した「死」の話を聞き、二人は「死」を見たい、と動きだす。由紀は病院のボランティアへ。敦子は老人ホームへ。そして、由紀は病院で出会った少年に父親を捜してほしい、と依頼されて……。

その他、いろいろな伏線がからまっています。由紀が書き、盗作された「ヨルの綱渡り」という小説。そしてその犯人の自殺。敦子が老人ホームでであった「おっさん」との交流。

伏線らしいものは張られていますが、トリックはないので「謎」ではないです。だって、予想を確定できるものの提供はないので。あくまで「あぁ、そっか」と思うためのもの、です。驚きはあるけれど、それは決して予想を覆されたからではない。

二人の主人公が別々に行動しているのに、微かに微かにリンクしていくさまは確かに面白いですが、いかんせん慣れるまでこの二人のパートの区別がつかない。文体や「*」で差をつけようとしているのはわかりますが、少々頭が混乱しました。それを狙ったことではないとは思うので、もったいない。

リンクしていたことが判明し、収束していくのが本筋。途中までけっこういい話です。それこそ、由紀が初期段階で冷めた目で見ていた「感動的な映画」のように。それがある意味「女子高生」という記号で崩れていく。最初からわかっていたことですが、彼女たちは別に「感動的な話」を望んでいたわけじゃない。由紀が少年の父親探しの依頼を受けるのも「感動の再会という演出のあとにある確実な死」を見越してのこと。それが明確に明らかになるラストは、確かに衝撃的なことだけど、正直なところパンチ力が弱い。全体的な印象は「惜しいな」でした。瞬時判断のできない一人称、関係が明かされる時間のバラバラ感。故の疾走感のなさ。何と言うか、演出がうまくないんですよ。小説で演出って言い方もおかしいかもしれないけれど、煽りかたが……っ。そして、緊張感が感じられない。話の筋も作り方もいいのに、全体的に「惜しい」。物足りないとは違います。んー、一番はやっぱり文体かと。合えばいいのかもですが、私的にはこの作りでもっと硬い文体なほうが好みでした。「女子高生」という記号につく気だるさを表現していると思えば、表現しているのですが……。

姉いわく、「告白」では文体が変わっているそうなので、期待。話の作り方は好みです。