夢を与える/綿矢りさ


夢を与える

夢を与える


蹴りたい背中」後、何年かの沈黙期間をおいて刊行された作品。それから「蹴りたい背中」好きなのですよー。あまり噂を聞かないのですが、書いててほしいなー。新作でるのを大人しく待っていよう。




さて、話は「夕子」の幼少期から、高校生までの物語。母親が執念で引き止めた夫の間に出来た夕子は健やかでとても美しい。彼女が通販カタログのモデルから、半永久的に続くCMの主人公にスカウトされ、芸能界でスターとなっていく過程を描きます。こう書くと明るいなー。けれど、川で遊んでいた夕子は、最初は真面目に考えて素直に答えていたインタビューに、いつしかマネージャーに云われたとおりの言葉を返すようになり……。その言葉が「夢を与える人になりたい」。本人が意識する間もなく忙しくなり、慌しくなり。母親と二人三脚ともいえぬ、依存と利用の関係は続き、気づけば彼女は誰ともわからぬ人が求める「夕子」を演じることに必死になっていく。
夕子に限りなく近い三人称で語られていきます。ふと考えれば彼女がどんどん危なくなっているのに、それを強く感じないのは、やっぱり視点が夕子に近いからか。最後らへんで恋をしてかなり頑固になった彼女は、例えば母親視点から見ればかなり危ない。けれど、読者にはその緊迫感がうまく伝わってこない。だって、本人はその恋を盲目的に信じているから。
正直なところ、話としては「んー……」でした。自伝的小説だと噂で聞きましたが、たまに作者の状況を思い出してしまうのはそのせいか。その時の居心地の悪さはなんともいえません。本筋とは関係ないけれど。あ、でも、もしかしてそれが狙いか。結構ダラダラ続くので、はっきりとした起承転結はなし。最初の頃は夕子がもっと大きくなれば……っ、と思っていましたが、この子、初期段階は環境に対応はしても明確な変化をしないんです。時列系が曖昧に表記されているせいもあるかもですが、なんとなく衝撃的な出来事が起こっても、その頃には夕子が世界への対応を覚えきったと思っているので、緊迫感ないんだよっ。
感想書きながら思い出して「あぁ、病んでっているなぁ」とすこし切なく思います。……なんだか一気に夕子に対して切なくなってきた。……言い方悪いが、かわいそうな子だ。恋に溺れすぎなあたり同調はできませんが、それさえも……そうだよなぁ、父親も近くにいなくて学校に行っては寝てるだけなんだもんなぁ……。まぁ、それは今思い返して感じることなので、読んでいる間は「………んー……」といい続けてました。
読みにくい文体です。この人のすごいところは、文体の進化なのかも。今まで三冊全部読みましたが、軽い→好き(ちょうどいい)→……なことになってます。何というか、推敲に推敲を重ねて変になったんじゃないかな、と邪推したくなる。奇妙なんです。突拍子もない違和感はないけれど、ん……? と思うことが多々。必要な言葉、足りなくないかい……? 私が神経質になっているから、かな。
んー……次の話、書いてほしいなぁ。