王妃マリーアントワネット/遠藤周作


王妃マリーアントワネット(上) (新潮文庫)

王妃マリーアントワネット(上) (新潮文庫)



西洋系歴史もので、このカテゴリー使うのはじめてかも。遠藤周作熱が冷めない間にとすこし前に手をとったものです。薄い文庫で上下巻。正直、あんまりここらへんの歴史に興味はないのですが……。


あ、案外簡単に読めた。あの辺の歴史もの、ということで判別のつかない固有名詞が頻出するのだろうな、と覚悟していたのですが、そんなことは全然ない。すらすらと頭に入ってきました。これは、私と作者さんの文体との相性の良さもあるかもしれません。
話は王妃マリーアントワネットが輿入れし、断頭台にて処されるまでを描きます。最初は無邪気でわがままだった少女が、王妃となり、翻弄され、子どもを産み、自分の立場を理解していき、でも結構わがままだったりする。最初はただの甘えん坊だったのに、いつしか彼女のわがままは自分を守る手段へと変わっていく。そして同時に、民衆の側にはマリーアントワネットとそっくりな少女が登場。彼女はマリーへ憎しみを燃やし続けます。彼女の活躍がなかなか爽快です。暗く淀み、それでいて人間らしく活動的。二人の相対的な性格と生活の描き方がいい。そして、マリーの夫のうだつのあがらない性格が情けないこと情けないこと。優しいことは悪いことじゃないんだけどなぁ。でも、個人的には私は彼が一番すきかもしれません。
その他、死刑執行人とかいろいろな視点を借りつつ、物語は続きます。
時間の流れは速め。日常を切り取る、というよりも、大事な出来事をダイジェストで切り取っている感じ。だからこそ感情移入はできないけれど、どんどん読める。暗くなりすぎず、明るくなりすぎない。登場人物は多いけれど、整理されている感じがして混乱しない。民衆視点の方がキャラが濃くて楽しかったです。悪巧みをしている時がいい。まぁ、お前らそんなに簡単に成功していいのか、ってすこし思いましたが。
物語が終盤に差し掛かると、とある青年将校が現れます。マリーに心酔し、彼女の彼を寵愛している。ただし、身体関係はなし。彼は捕まったマリーを逃がそう逃がそうと作戦を練り続けます。後半はこの人の登場からはじまるので、後半の主役はこいつなんじゃないだろうか。…いえ、愛云々は置いといて、彼は大変そうです。……諦めろって云われたら、諦めない、そこ……。悪い人じゃないけどなぁ。ちょっと彼の行動原理が不明です。
一番印象深いシーンは、マリーの子どもがマリーの悪口を云うことろ。あそこ、好きです。決して美しい物語に仕立て上げず、皮肉めいたところが残っているのが素敵。
ただし、この話、不思議な書き方をされているんです。マリーアントワネットの生涯を語る語り手「私」がいるのですが、読み終わってとりあえず思ったことは「お前いったい誰だっ」。彼女に起こったことをすべて把握している、となると作者としか思えない。ということは、私はずっと作者の独白的歴史解釈を聞いていたのか。いや、そもそもフィクションを元にした話なので小説の成り立ちとしてそれで間違ってはいないのですが。楽しかった。楽しかったけれど、そこだけよくわからない。でも、楽しいのー。……ただ文体の相性がいいだけなのか。歴史がちょっとだけわかった気になる(詳しい人にとっては不明)ほぼ一気読みの話でした。