浅草色つき不良少年団/祐光正


浅草色つき不良少年団

浅草色つき不良少年団


題名に引かれた一冊。どこかの新人賞だと後で知りました。結構渋い文体なので、新人さんとは驚きでした。



そしてさらに驚いたのが現代ものではないこと。舞台は戦前の浅草。「モダン」という言葉が流行っている頃の話。カラーギャングって現在の想像物じゃなかったのか……。いえ、色んなところで機能の違いはあるのですが。
「不良少年団・黄色団」の頭目が主人公。不良と云っても、節度は守ります。隠居している頭目のところに漫画家がお邪魔して、話を聞くのが導入部。ただし、語り口っぽいのは最初と最後だけ。後はセリフがバンバン入り、正にそこにいるかのよう。同じ浅草にて活動する「紅色団」の頭目「百合子」がだいたいの探偵役。黄色団の頭目もきちんと推理しますが。
短編が五つ収録。謎解きトリックとしては…おーい…なところは確かにありますが、そこは置いておいて面白いのは浅草の雰囲気とそこを駆け抜ける少年たちの活躍。明るさや親しさの中にちょっくら影が差して、不可思議な事件を盛り上げていきます。謎も導入がいい。瓶詰めの少女や、突然現れた死体。少年に男気って言葉は少々似合わないけれど「カッコイイっ」と叫びたくなるその活躍。「百合子」のベッタベタの設定に思わずときめいてしまうのは悔しいですが、でも素敵です。
ただし、読んでいると自分の無知っぷりがよくわかりました。え、これってどういうもの? という単語が幾つも……。わからないよっ。言葉遣いが時代がかっているのがその原因です。でもでも、これまた雰囲気がある。ただし、テンポはない。少年たちが駆け抜ける場面は疾走感があるのですが、ふとした拍子に止められてしまう感じがしました。それが何度も重なり、ちょっくら細切れな印象がつきます。この文体のリズムが合えば、もっと楽しいことは請け合い。時列系も同じです。んー……もすこし読みやすくなりそうなのが、非常に残念。
雰囲気はかなり上質。少年団の活躍と生臭い話の折り合いのバランスは最高です。だからこそふわふわしないで、地に足がついた印象がするのだと思います。トリックミステリーではなく、人間の話としてかなりいい。汚いところ、どうしようもないこと、切ないこと。色々混ざり合ってた。登場人物に有名人が出てくるのもまた一興。昔の話はどうしても美化した挙句、その独特な雰囲気に呑まれてついつい「素敵」と云ってしまうけれど、これはちゃんと実態が伴っている、気がします。特に人の生死、とか。テンポの悪さを(私が)克服できればもっともっと続編読みたい。